「やぁ、どうしてる?」
「あら、嫌われたんだと凹んでいたのに」
「ちと書類が沢山あるから忙しくなってきた
俺に意見すると嫌われるぞぉ~マジでだ!!!」
「ただ、ちょっと顔が見たかっただけなの」
「無理強いされると怒る俺がいるね!」
「うん、わかった」
「だから生意気な女になるなよ、顔見たいんだったら、俺の好みの女になれよ」
俺様のご要望はどこまでも御無体だった。
「あれ、今どこから?」
「ああ、まだ出先でiPhoneから世話になってる所の無線LANにアクセスしてるんだ。
door抱きたいなぁ」
「じゃぁ、チケットとホテル用意するから東京においでよ、それから決める」
「あんのんねん」なまりなのか、ふざけているのか彼の「あのね」はこんな風に聞こえる。
「俺、津波から逃げてからパニック障害になっちゃって乗り物とか人ごみとかもうダメなの。ドクターストップ」
「はぁ~~、しょうがないなぁ、うん、分かったよ
じゃ、その分のお金義捐金ってことで送金するから口座番号教えて」
いったんそのつもりになって行き先のなくなった中途半端なお金を使ってしまいたかった。
「明日は帰ってすぐにお袋を歯科医に連れて行って…そのあとだな
door抱いて良い?」
「台風来るから気をつけてね、土砂崩れとか 」
「国道で帰るから大丈夫」
「地震の後だから地盤が緩みやすいと思うから」
「door抱いて良いのか?マジで一度抱きたいけど…」
「ははっははは何でイキナリそこ?」
「笑うとこじゃないだろ、doorは嫌かい?素直に答えろ」
「逢いに行きたいって行ったのは私でしょ?
でも徹ちゃんがなんだとかかんだとか…」
「けど、俺、金が無いから、かっこいい出迎え出来ない…
だから会えないと…言わせるな…」
「そんなの分かってるからどうでも良いけど、
それより徹ちゃんにその分のお金送ったほうが良いと思うんだ。
気がすまないんだったらあとで、徹ちゃんの生活がちゃんとなったとき身体で返してもらうから。私が68歳になっても必ず返してもらう。腰もんで貰うことになるかもだけど
今回はそうしよう」
「明日、俺が好きそうな下着でまってろ」
「なんか、会話がかみ合ってないんだけど、こっちに来れないんでしょ」
「 Hな徹は嫌い?」
「好きだけど、なんでいきなり~?」
「door、俺を好きでいてな!」
「いったいどうしたのぉ、本当の私は徹ちゃんの嫌いな生意気な女なんだよぉ
いずれにしても口座番号が分かったらその場で振込みはするから」
「有り難う、感謝する」
「ひゃはは、そんな改まって。気にすることないって」
「笑うなよ。辛いんだから」
「何が辛いの?」
「金も仕事も無い辛さがある」
預貯金は家の修復とその後の生活費に消えているのを知っていた。母親の年金があるからと、仕事のプール金を仲間で分けたとき、自分の分は辞退してたらしい。どこまで本当かは分からないけど。彼の美学から言うとそうなのだろう。
「まぁ、こんなときだから当然だと思うし、私自身自分で使っている電気の原発を福島に置いといて、そのことにずっと無関心で、こうなった今も何も出来ないことに対する負い目を少しでも少なくできる。そういうことだ」
「頭良いんだな」
「さっきから会話がどうもかみ合ってないけど、大丈夫?疲れ過ぎてない?
まぁ、ともかく気楽に徹ちゃんが自分のことを考えてさ」
「ボランティアに来てる今は、被災民が先だよ。俺は最後で良い!」
「そういう風な男気が好きだけど…」
ちょっと違うんだよなぁって言葉は飲み込んだ。また怒られる。
「台風気をつけるんだよ、気圧の変化でまた地震があるかもしれないし」
「有り難う、気をつけて帰る。俺の好きそうな下着でいろよ」
なんだか最後まで会話がかみ合わなかった。大丈夫なのかなぁ、この人。
「こんばんは」ポップ音がした。
「いいよ、今ゆっくり話せる」
「風邪引いたみたいだ。熱がある」
「もう、無理ばっかりするからだよ」
「服脱いで」
「?」
「下着になって」
「え?ここで?今?」
「こっちに来るつもりがあるんだから、見せてくれても良いだろ」
「あ、俺の好きそうな下着ってそういう意味だったのね」
昨日の会話のかみ合わなさがようやく理解できた。
「え、じゃなに?私PCの前でストリップすんの?」
「そう」