遠くのユニクロ | 秘密の扉

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ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

ドライブで行きたい場所は? ブログネタ:ドライブで行きたい場所は? 参加中

夏の盛りを過ぎた頃からたかしは奥多摩に行きたがっている。
「奥多摩なんて何も無いよ」
何もなくても良いのかもしれない。ドライブが目的なれば。
「もう少ししたら紅葉を観にいこうね」と、約束した。
気持ちのいい季節だもの。自然の中ですごそう。

それにしても二人でドライブする時に気に入らないことが一つある。たかしが「ナビ子さん」と呼ぶ女の存在。
この女は右へ行けだの左に行けだのたかしに命じる。それはこの女の役目だから仕方が無いのかもしれない。地図にはホンダのディーラーしか案内しないし、全く偏向している。
そして日に2時間以上たかしと過ごすこの女に私は密かな敵愾心を持っている。

山の中へ行くのに、日が暮れてからだと道がわかりづらくなるので、昨日は早めに出発した。近くに着いても予約の時間まで一時間近く余裕があったから、息子の冬の服でも買って時間を潰そうと思った。
「どっかユニクロか何かないかな」と私が言うと
たかしはナビ子に向かって
「ユニクロ」と伝えた。
するとこの女は
「近くのユニクロでよろしいですか」と聞くのである。
郊外とはいえ、都内を走っているのに、青森のユニクロの案内をされても困る。当然近くのユニクロである。するとナビ子は衝撃的な発言をしたのである。
「近くのユニクロと言ってください」
私は逆上した。この女は右へ行けだの左に行けだの指示するほかに、わかりきっていることをたかしにわざわざ言うように命じるのである。
「何なのっ、この女は。自分でわかっているんだから、わざわざたかしに言わせなくてもいいじゃない」
たかしは笑いながら
「近くのユニクロ」と言った。
ナビ子は気が済んだらしく、2kほど先のユニクロを案内してくれた。ところが行った先にユニクロが見当たらない。通り過ぎてUターンして見てみると、違う名称の同じような店舗だったので、用事は済んだ。
でも私は日頃の鬱憤が出て来て仕方がない。
「ナビ子、ユニクロなんかなかったわよ、しっかりしてよね」
ナビ子は澄ましていた。
「全くこの女可愛くないわ、生意気よっ。遠くのユニクロって言ったら遠くのユニクロを探すわけ?たかしっ、この女に遠くのユニクロって言ってやって。いったいどこを案内してくれるのかしら」
たかしは吹き出しそうになるのを抑えながら
「遠くのユニクロ」と言った。
気に障ったのかナビ子は沈黙していた。もしかしたら私がいないときに、たかしにだけこっそり案内するのかもしれないが。