東京方面 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

ハリポタ読んで夜更かししてないかなー?
今日は午後から外出だから電車で通勤~


へー どこへ行くの?


東京方面


そっか痴漢に気を付けてね
昨日は早く寝ちゃったみたい


どんな痴漢だー


えっちな人 東京に多い
痴漢に間違われるっていう危険にも気をつけるんだー


それより刺されないように気をつけなくちゃー


国分寺は危険だよ 今朝も蚊に3箇所も刺されたー



東京方面だなんて言い回しにちょっと引っかかった。いつもは駅名や場所名を伝えてくるのに、これは何かある。いつもとても不思議に思うけれど、男というものはなぜこんなに嘘が下手なのだろうか。


たかしも私も仕事が忙しくて朝の通勤時間、メール会話だけの日々が続いている。
逢いたいなんて言えないくらい忙しそう。休日疲れて寝ているだけにしても、お嬢さんたちには一人しかいない親なのだから家にいてあげて欲しいと思う反面、自分が逢えない物足りなさを噛み締める。


それでも先週は私の子どもが寝た夜に、ひっそりとやってきて外で1時間。たかしはシンデレラのように慌しく帰っていった。 週末まで押し寄せてくる雑事。土曜日と日曜日の空き予定がどうしても合わない。

金曜日、仕事から帰って来て週末を父親のところで過ごす息子を駅まで送っていく途中に2件メールが入った。見ている暇もない。


doorどこにいるー


まだ仕事かー?


今子ども送ったところ、駅


それだけ送って、私は住まいの更新のために不動産屋に書類を持っていった。私も毎日慌しいのだ。
不動産屋と話をしているとまたメールが入った。


今新宿 逢えるかなー


全く。やっぱりそうだったか。新宿からだったら20分か30分で着いてしまう。私の身体は汗まみれで首の周りなどはチリチリと汗疹の前兆を浮かべていた。着ているシャツもべっとりだ。それでもノーと言えなかった。


ちょとだけ手が離せないから向かって


急いで家に戻り、髪を直し服を着替えた。ドロドロの顔を洗って化粧をしなおしたところで


例の飲み屋で一杯やろう 


とメールが入った。また慌しく駅に向かってお目当ての店の手前、私の前に進んできたのがYシャツ姿のたかしだった。どういうわけか私はいつもたかしを見つけられない。


「店混んでるー」


「えぇ~、ここはいつもそうだよ」


店の奥を覗くとスペースはあったけれど、この時期の特等席は外だ。そして外は一杯だった。


「じゃ、なんか買って帰ってうちで飲む?」


コンビニでビールとおつまみを買って帰った。庭のトマトが赤くなっていて、それがその日のご馳走。
開け放った窓から涼しい風が入ってくる。