「帰っちゃダメ」 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

「明日は何着てくる?」
「えっとリクエストは何かある?」
「なにがいいかなー、何着てくる予定だったー」
「この間のワンピースが、ニットだからしわにならなくて良いかなって」
「うん それがいい」
「そうぉ?街中だけど嫌じゃない?」
「うんうんうん」
「なんで3回のうん」
「なんとなくー、力を込めてー
うん
カーディガンとセットのニットのワンピースは丈が短い。たかしは自分と一緒の時は短いスカートでも良いが、そうでない時は感心しないというようなことを言っていたことがあった。自分の娘が短いスカートをはいていても
「お腹がスースーするぞー」
としか言わないくせに、なんで私にはそんなことを言うのかわからなかった。自分でもいい年してちょっとねと引け目を感じているぐらいだからそこは争わなかったけれど。自分ではまだいけると思っている脚も、ちょっと痛い感じに見えるのかしらと思って寂しかった。
でも純粋に自分と一緒の時は短いスカートがいいらしい。もう絶対に痴漢に襲われたりしないからと何度言い聞かせても理解できないみたいだ。



ここのところ本当に二人とも仕事が忙しくて朝の通勤のひと時と、昼休みにちょこっとのメールのやり取りだけだった。気がつくとたかしの顎が尖っていて、
「痩せた?」
と聞くと頷く。

ろくな物食べていないんだろうなと気の毒になる。


本当にしんどいのは私も同じで、神経が高ぶって眠れなかったりし始めて、また眠剤が必要になった。

私には安心できる場所が必要で、つまりはそれは誰かの腕の中だったりする。
ホンのひと時だけ。
渇きに耐えられなくなって飲む一口のビールのようにそれは甘く、少しだけ苦い。


「帰っちゃダメ」

と、私が言うと

「でも帰らなくちゃいけないんだよ」と小さな声で言う。

そんなことわかってる。わかりきっている。

それでも言いたかった。