マジック | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

時おりたかしは10000円札を穴を開けずにボールペンで突き通してみせたり、布団の中で指先を赤く光らせて、私を驚かせたりする。
私は負けじとたかしの1000円札を真っ白に変えたりして対抗している。
500円玉に鍵を通すマジックは二人とも同じネタを用意していて笑ってしまった。


この間博品館でたかしにマジック用のトランプを買ってもらった。
原理が分かれば意外に簡単なはずなのだが、鮮やかにやって見せるのはなかなか難しい。
まだまだ自主トレ中で、そのお披露目の日をたかしは楽しみにしているみたい。


「doorが胸元から鳩を出す夢を見たー」
私は夢の勉強をしていたから意味がわかった。なんて素敵な夢だろう。
「それは…素敵な夢を見たね」
「それがさー100羽ぐらい立て続けに出てくるんだよー
 白やピンクや青や黄色の鳩がー」
「鳩って凄く幸せな意味でたかしそんなにハッピーなのか…
 嬉しいなぁ」


鳩が象徴するもの。安らぎ、幸福、自由…

それが私の胸から次々に出てくるなんてなんて素晴らしいことだろう。
口先の言葉を鵜呑みにするほど子どもじゃない。私たちには無責任に口に出来ない言葉がたくさんある。
だから心を言葉に乗せられなくて、いつももどかしい思いをする。
たかしの深い心の中まで、そんなにも満ち足りていたなんて知らなかった。飾られた告白より何倍も嬉しい。


私たちは特別な人間じゃない。どこにでもいるただの人。
それでも魔法のように次から次へといろんな幸せを感じている。

恋は魔法。

ネタが分かっているのに不思議なものだ。