「私のどこが好き?」 | 秘密の扉

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ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

そんな質問が一番男にとって面倒なことだなんてよく知っているのについ聞きたくなってしまう。
「私のどこが好き?」


質問として成り立たない、聞く方が野暮だ。人は人のことをパーツで好きになるわけじゃない。好きと思うから全部好きになるのだ。そんなこと分かりきっているのに。
それでもこのあいだつい口を突いて出てしまった。


「たかしは私のどこが好き?」
「ン…ぜんぶ」
がっかりだぜ!その答え方だと、20点しかあげられない。とっても誠実に答えようとしてくれているのだろう。しかし考えるのを放棄しているような印象を与えてしまうし漠然としすぎだ。


若い頃の恋愛だとちやほやして欲しいというのがあるのかもしれない。かわいいって言って欲しい。自信のあるところを褒めて欲しい。単に困らせてみたいというのもあるだろう。


でも私はそんなことを言って欲しいのではない。
きっと私という人間を理解してもらっているかどうかが不安なのだ。


もしdoorの顔が好きといわれたら、顔だけ?と聞くだろうし、性格が好きと言われたら私の性格をどれだけ把握しているのかと問い詰めてしまいたくなる。それから若い頃の恋愛とは違ってお互い山のように過去がある。それらをひっくるめても好きで居てもらえるのかということだ。


先ほどの愚問をしたあと、私は心の中で自らに聞いた。
「私はたかしのどこが好き?」


恐ろしいことに私は全部とは思わなかった。くぐもった優しげな喋り方が好きだし、ちょっと私を子ども扱いするところも好きだし、メガネを取ったときのキラキラ光る眼がセクシーでゾクゾクするほど好きだ。一つ一つ挙げていけばキリがないけれど、全部とはとても言えない。たかしのどれ程も知っていない気がする。人には表も裏もある。それらをひっくるめて全部とはとても言えない。出会うまでのそれぞれの人生が長かったのだから、どんなものが出てくるのか分からない。


私にはそんな勇気はないよ。