高速道路 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

国立府中インターから浦安に向かって車が走っていく。
「doorと付き合うようになってから今まで行ったこともないところを通るようになったよ」
「こっちのほうは用事がないものね」
「あの建物は何?」
「あれは競馬場」
「そう言えば電車で来たときにそれっぽい人たちがたくさん降りてたな」
「みんな赤鉛筆持ってるよね」
「あはは、そんな感じ」

「もう少し行くと私の中学と高校が見えるよ」
「うわぁ、ずいぶん都会だね」
「そうかな」
「知らなかった、doorって都会人だったんだ」


中央高速から環状線に入って車は都心を横切っていく。
「たかしだって横浜なんだから都会じゃない」
「だってこんなところじゃないもん」
千駄ヶ谷、信濃町、四谷、物凄いスピードでいくつもの思い出の地を走り抜けていく。あの人は元気にしているだろうか、この人は今何をしているだろうか。


「東京タワーってどこ?」
「見えるとしたら赤坂辺りだろうけど、もう通り過ぎちゃった。見たかったら帰りに見てみよう」

懐かしい幾人もが私の頭の中で通り過ぎて行って、それをたかしには話せない。
歩き回り、走り回った都心ははるかな下にあるみたい。
「地名は知ってるけど、イメージが湧かないんだ」


例えば四谷なら迎賓館があって上智大学があって、あの店やあの会社がある。そこでのいろんな思い出。街の雰囲気や空気感。そういったものが自然と地名に絡み付いてくる。四谷と他の街との位置関係は走り回って私が掴んだもの。歩いて感じた歴史。それはたかしとも誰とも共有できない。私だけのもの。夕暮れの街を見ながら私はそんなことを考えていた。



お正月だというのにオフィスビルの中には蛍光灯が付いていて私とたかしを驚かせた。
「こういうビルの中に全部人がいるわけでしょ、物凄い数のひと。なんだかそういう中って嫌になっちゃう。疲れるっていうか」
「そっか、そういうのなんか分かるな」
「もうさ、国分寺でいいよ。」
「うん、いいところだ」