ズーラシア | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

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私はふざけるのが大好きだ。たかしと一緒の時は照れもあって余計にふざける。

今日は待ち合わせの駅が途中で変更になった。一駅先だ。

いつも車で早めに来て私を待ってくれているたかしを、今日は私が待ちたくて、20分も前に着くようにしたから、余裕だった。


その駅にもお花屋さんがあって、私は花屋の店先の写真を撮った。待ち合わせの場所がはっきりしなかったから、この写真をメールで送ったら彼はパニックになるだろう、と想像して一人でニヤニヤする。

でもそれではあまりに気の毒だ。代わりにロータリーの場所を撮りメールして、オデッセイを待った。


後10分ぐらいかなと、踵を返すと「おいおい」と後ろからたかしの声がした。

15秒ほど前から私の隣にいたのだという。

「え~てっきり車で来ると思っていたのに」

「上見ていたじゃないか」

「ごめん、気が付かなかった」

そんな風にさりげない気配の人。静かな人。





ズーラシアの入り口から入っていくと、インド象が3匹。1頭が雄、2頭が雌。

雌象は昼食の真っ最中だった。そこに対岸の雄がちょっかいを出す。私は象の仕草に、声を宛てた。

「ねぇ、ちょっと僕にも分けてちょうだいよ」

「え~、これは私の分よ」たかしが笑う。

「ねぇそんなこと言わないで、ちょっと頂戴」

雄象が雌象の掴んでいる葉を少し奪う。

「も~らい」

草を食べた雄象は、雌象の頭を撫ぜるようにする。

「良い子、良い子」たかしが吹き出した。

「ねぇ、そっちの葉っぱも取ってよ」

「え~、そんなのあなたがこっちに回ってきて食べれば良いじゃない」

「良い子、良い子」

「そんなことしたって分けてあげないんだから」

「良い子、良い子」


やがて二頭の象の鼻が絡んだ。私たちも手を繋いだ。

たかしは右手で私の頭を撫でた。

「良い子、良い子」


その手を離したくなかった。言葉は要らない。


ぐるっと動物園を回って、帰り道たかしの肩にもたれたかった。もう離れたくない。せめて一緒にいる時間ぐらい。


それだのに、オデッセイの座席は離れていてたかしの肩にもたれようとすると、私の身体は斜めになってしまう。「そんな体勢で窮屈じゃない?」

「だって、この車御家族仕様で、カップル向けじゃないんだもん。良いよ、このままで。離れて居たくないから」