香港ドール異聞~ガウチィ | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

「ガウチ~ィ」
しんさんは素っ頓狂な声をあげた。私がえんぴつで「焼餃子」と書いてそれを食べたいと言ったからだ。
中国に焼き餃子はないらしい。それは私が納豆に砂糖をかけて食べることに抵抗を感じるのと 同じようなことなのだろう。
「日本では餃子は普通焼いて食べるよ。だから私は焼いた餃子が食べたいの」
「ふふん、ふふん」
しんさんは可笑しそうに笑った。分かっている。無い物は作らなくちゃならない。私はしんさんに頼んで材料を買ってきてもらった。もちろん忘れずに青島ビールも頼んだ。
「あれ?餃子の皮は?」私は香港にも「東京ワンタン本舗」が存在しているような気になっていた。
「モウマンタイ」
しんさんは小麦粉を練りだした。こうやって皮も自分たちで作るものらしい。私が作った具をしんさんの作った皮で包む。それは美味しい日中共同作業だった。
しんさんは手に持った麺棒で器用に皮を丸く伸ばしている。なかなか上手だ。
二人でいくつも作って私が焼いた。
酢醤油につけて一口で食べる。うん、やっぱり餃子はこうやって食べるのが美味しい。
「ホウメイアー、でしょ」
しんさんは笑いながら餃子を口に含む。
「むぉぉ」
口の中をいっぱいにしながらの感嘆の声。
「ウヒヒヒヒ」それでもやっぱりしんさんにとっては奇妙な味なのだろう。なんだかとても楽しそうだ。しんさんにとって餃子は水餃子を意味するし、私にとっては焼き餃子を意味する。
私はちょっと皮の厚い水餃子も大好き。だけど焼き餃子は当たり前の美味しい味だ。
しんさんには水餃子が当たり前の味で、焼き餃子はきっと「変な食べ方」なのだ。
「これさぁ、ビールによく合うと思うよ」
しんさんのコップに青島ビールを注ぐ。
「ん~ホウメイ」
ガス台の上では次の餃子が焼けた頃だ。音で分かる。
しんさん、私のコップにもビールを注いでよ。
「ガウチー、ンフフフフ。ガウチー」
しんさんはなぜか一人で受けている。なにか、よっぽど可笑しいのだろう。
ねぇ、じゃぁ今度は揚げ餃子に挑戦してみる?





まぁ、最終回が終わった翌日にこんなものを書いて未練たらたらw
書き手としてはこの主人公たちを愛しているのでこんな楽しい思いもさせてあげたかったなと。
ところが主人公たちには主人公たちの生き方があるのでストーリーの中にはこれを盛り込めないわけです。
このお話がその後、のことなのか、彼らのもう一つの選択の結果なのか想像にお任せして。