香港ドール17 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

ビックリして私は思わずドアを閉めた。ギリギリで間に合った自制心が最後に音を立てないように私に命じた。
いつから鍵が開いていたのだろうか。記憶を辿ってみる。
パニックに陥った時、確かに鍵は開いていなかった。その後もたいてい2つ、カチン、カチンとしんさんが几帳面に鍵を掛けている音が聞こえていた。
それは今日も同じだ。鍵は2つ付いていて、確かに音が…


私の頭の中に真っ白な閃光が走りぬけた。音だけだ。


一度やってみて後は確かめもしないで、鍵がかかっているものと思い込んでいた。すっかり諦めていた。
もし一つの鍵を一度かけて、また開けたら同じような音がする。今まで閉じ込められているとばかり思っていたけれど、もしずっと開いていたのなら…。


私を閉じ込めていたのはしんさんじゃない。自分を閉じ込めていたのは自分だ。
自分なのだ。すっかり諦めていた自分なのだ。


外に出られる!日本へ帰ることが出来る!
外に出よう、そこらにいる人に助けを求めたら、日本領事館に連れて行ってもらえるはずだ。靴も履いていない、半裸の目の見えない自分が歩いていたら、きっと誰かが助けてくれる。


すると心の中でもう一人の私が叫んだ。
ちょっと待って、しんさんのことはどうするの。
ねぇ、私しんさんのこと好きになっていたじゃない。あの人のこと何も知らないけれど、しんさんを喜ばせたいって言うのは好きってことだよ。何でか知らないけれどしんさんは私を助けてくれた。なにがしたいのか訳が分からなかったけれど、毎日食事を持ってきてくれたじゃない。しんさんと話したくて辛い思いをしているじゃない。そのしんさんと二度と逢えなくても良いの?


またもう一人の自分が囁く。
落ち着いて考えてみて。明日だってきっと鍵は開いている。明日だって出て行くことが出来る。明日だってきっとしんさんは食事を持ってきてくれる。
もう少しゆっくり考えてみたほうが良い。
ねぇ、もうすぐカーディガンが編みあがるよ。幾らなんでも裸みたいな格好で外に出たら恥ずかしいでしょう。ショールを巻きスカートみたいに腰に巻いて、カーディガンを着たら少なくとも裸じゃない。出来上がるまで待ってみても良いんじゃない。



私は混乱していた。日本に帰りたい気持ちと、このままここにとどまって居たい気持ちが完全に交錯していた。ゆっくり考えよう。確かにいつでも出て行くことは出来る。カーディガンが出来ればそれほど恥ずかしい思いもしなくて済む。ホンの少しの間のことだ。もう少しだけここに居よう。


でもそれは私の自由意志ということになる。ここに居ることは私が選んだということになる。少なくとも気がついてしまった今では完全にそうなのだ。


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