香港ドール8 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

明らかに私は男の手に感じていた。その手が下のほうに伸びて私の尻をゆっくりと洗う。いつもとは違って脚を先に洗い始めた。男もまた私の反応に戸惑っているらしい。内腿に触れる手がまた私の吐息を導き出した。私の全身はさぁっと硬くなり更なる快感を期待している。


何で、どうして、私はどうしてこんな気持ちになるのだろう。
手が私に届いて吐息に声が混じる。男はびくりとしたが手を止めなかった。
もっと触れて欲しい、もっと気持ちよくして欲しい。その手はとても甘やかに滑り込んできたのに、すぐに通り過ぎて、男は力なくもたれかかっていた私の身体を引き離してシャワーをかけ始めた。


「なんで?」
ショックの余り私は抗議した。先ほど私の脚に触れた男は硬かったと思う。
風呂から出た後かしらんと考えて私は混乱する。

おかしい、これは完全におかしい。
閉じ込められているのは私、彼は自分の意志で私を好きに出来るのだ。それなのに私が彼を求めている。これは何か逆転してはいないだろうか。きっとこんな異様な状況だから混乱しているのだろう。そもそもなぜこんな…
やっぱり背後に誰かの存在があるのだろうか。でもそれなら一週間近く他に誰も来ないというのはどういうことだろう。答えの出ない疑問をもう何度も考えて、私はきっと頭がおかしくなってきているのだ。

あぁ、狂ってきている。早く狂ってしまえばよい。


男に導かれるままに身体を拭かれ、なすがままにされる。シルクの感触のネグリジェは私の皮膚を滑らかに滑っていく。ベッドに導かれ横にされて男は昨夜と同じく私の脇に腰掛けたままだ。薄氷の緊張感が二人の間を引き裂いていた。5分だったか、10分だったか、ついに私は男の手をとって自分の胸に当てた。男の手は強張り、寝転んで薄くなった乳房の形にも添わない。


沈黙。


私を囲い、食事を与えているのは彼だ。私を売春宿から買い取ったか、借り受けたのは彼だ。
つまり彼は私に対価を払っている。ということは私から何かを得たいと考えているはずだ。私を入浴させることが目的なのだろうか。
おかしな話だが、もしも私がうんと子供で、ロリータ趣味の男が自分の良心と欲望の葛藤を入浴という形で示しているなら、それは理解できないことではなかった。でも私は盲目で外国人かもしれないけれど、成熟した元売春婦を入浴だけというのはやっぱり私の理解を超えていた。
レイプしたいという欲望を反抗的な売春婦を抱くことによって消化している男たちのほうがまだ理解できる。


一方で男はやさしく私の世話をしている。男の私に対する態度に愛すら感じるときがある。
食事を食べさせてくれる時、運ばれるタイミングの見事さはどうだ。私が飲み込むのと同時に口元に用意されている。それは確かに私の喉元を注視していることに他ならない。お茶が飲みたいと思うと、もう用意されている。


私は高校生のときに脳溢血で倒れた祖父の介護を少しした。子供だったからというのもあるが、口元に食事を運ぶタイミングが計れずに祖父を随分イライラさせてしまった。口の回らない祖父が何度も「うぐぅ」と抗議するので、しまいには私はしなくて良いことになってしまった。


家族はどうしているだろう。警察からの問い合わせに父は怒っているだろう。母は心配しているだろうか。大学の友人たちはもう私のことなど忘れてしまったかもしれない。幼友達たちも私が東京にいると思っていて、いや、きっともう忘れられている。

あぁ、そうだ。私独り、一人でこんなところにいる…
私の世話をしているのは顔も分からないこの男なのだ…


そして意識が途切れたらしい。

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