香港ドール1 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

若かったんですよ。愚かだったんですねぇ。
当時学生運動に足を突っ込んで…えぇ、あの頃はみんなそうでした。
止せばいいのになんだかのめり込んでしまってねぇ。もともと勝気な性格なもので、いつの間にかグループのリーダーの一人になってしまって…
…そうこうしている内に周りが検挙され始めてねぇ。さすがにまずいと思って身を隠そうと、それがそもそもの発端でした…
結局騙されたんですよ。ほとぼりが醒めるまで一、二年高飛びする極秘のルートがあるとか何とか上手いこと言われて。
そりゃ極秘のルートでしょう。私は…売られたんですよ。


当時は警察に追われていると思い込んでいたし、何とかして逃げなきゃって、それしか頭になかったもので。
鹿島灘から漁船に乗って、海の上で乗り換えてね。シンパだから大丈夫、逃走費ぐらい出してやる、だなんて…あっはっは、笑っちゃいますねぇ。
ほんとに世間知らずでした…船酔いしてねぇ…船員に笑われて…
船を下りたら迎えに来る人がいるから、その人にすべて任せればいいって言われていて…片言の日本語をしゃべる人に車に乗せられて…
ついたところは…売春宿でした。


そりゃ抵抗しましたよ。でもね、言葉も通じない4,5人に輪姦されてごらんなさい。
諦めるしかないんですよ。
それでも私は強情だった。客に抵抗してね。皮手錠をかけられて…おかしなものでそんなのがいいって客もいたりして、笑っちゃうでしょう?しばらく生傷が絶えませんでした。
抵抗すればするほど客は喜んで、ふっ、馬鹿でしょう?


やり過ぎたんでしょう。ある日客の腕を食いちぎりかけてね、店の男3人がかりで押さえつけられて、無理矢理苦い薬を飲まされて、また輪姦されて、えぇ、何度も誓いましたよ、もう抵抗しないってね。
でも目が覚めたら…目が覚めたのに、眼が見えなかった…薬のせいでしょうか。
もう死ぬまでここにいるんだなと、そう思いました。
ところがそれから4,5日経ったある日、また車に乗せられましてね。だってもう言うがままですよ。言うがままも何も、言葉も分かりませんけど。
車を降ろされてしばらく歩いたり階段を上ったり、多分九龍城かそのあたりじゃないですか、阿片の……甘い香りが時々漂っていたから…


目が見えないから分かりませんがね、連れて行かれたのはホテルの一室のような部屋で、そのあたりは臭くもなかったし、かなり清潔だったと思いますよ。
大き目のベッドが一台、洗面台、バスルーム、クローゼット、ソファとテーブル、冷蔵庫。
なにやら何人かでやり取りがあってね、言葉は分かりませんが、目も見えないですしね。私は皮手錠のまま、そこにいた一人と残されて…
…その男に売られたんですね。
そこから…不思議な生活が始まりました…


二人きりになると何か話しかけてくるんですが、もちろん広東語なんて私には分かりません。
お茶を入れてくれてね、もしかしたらまた薬が、と思ったけれど、買ったものをまさかすぐに殺しはしないだろうと。ゆっくりとそれを飲みました。殺されたって構わないと思っていましたもの。
言っても通じないから私は黙りこくってね。目も見えないし、不安だし、ソファの上でひざを抱えていました。皮手錠をかけた手が、いい具合にすっぽりとはまるんですよ。
しばらくすると肩を抱いて洗面所の位置、冷蔵庫があることを教えてくれて、バスルームに連れて行かれました。そこで手錠を外されてね。頭の先から足の先まで丁寧に身体を洗ってくれました…


私は思い出す。あの懐かしく奇妙な生活を。華やかに飾られた囚人、囲われの香港ドール、闇の中の鳥かご。


そう、そしてベッドに導かれて結局は男の慰みものになるのだと、こぼれる涙を拭きもせず、流れるままに任せていると、やがて男の指が私の涙をふき取って、遠くでパチリと電気を消す音がした。
身を硬くして待っていたのに、そのまま扉を締め、鍵を掛ける音がして男は出て行く。何かを買いに出かけたのかと、眠れぬまま夜を明かし、しかしいつの間にか私は眠ってしまったらしい。


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あけましておめでとうございます
皆様いかがお過ごしでしょうか
こちらは久方ぶりの更新でございます。
ご笑覧いただければ幸いです。