ジャッジメント/アンドリュー ヒル | Doodlin' Records

Doodlin' Records

神戸元町のバー「Doodlin'」店主がチョイスするジャズレコード紹介。
勝手気ままに書かせていただきます。

ブルーノートのオーナー、アルフレッド ライオンが惚れ込んだピアニスト、アンドリュー ヒルはまぎれもない天才であると思う。ヒルの持つ内省的であり、攻撃的である音楽性は登場した60年代初頭から現在を持ってしても、誰も真似する事など不可能な世界観をかいま見るものだ。

ヒルがブルーノートに録音した数枚のアルバムの全ては尋常ではないクオリティーと超がつく特異性に満ちた傑作ばかり。よってその中からどれが1番良いか、などの選択はどだい無理だし、意味なども無い様に思う。ひと昔前だとヒルの傑作はエリック ドルフィーが参加した「離心点」であり、またそれ以外は無いという評価が一般的であった。確かに「離心点」は傑作ではある。しかし、ヒルの魅力はとうていそれだけでは無い。

そこで今回はヒルのリーダー作としては(番号順では)2作目にあたり、音楽性が最も克明に現れる4人編成というフォーマットで展開された「ジャッジメント」を紹介したい。といっても初リーダー作「ブラック ファイアー」がジョー ヘンダーソンを迎えた4人編成、続く「スモーク スタック」が通常のピアノトリオにもう1人ベースを加えた変則的な4人編成であるから、この2ヶ月という短期間に録音した3枚がそれぞれ4人編成でありながら、全く違う形で挑んでいる所に、ヒルの並ではない音楽性の表れが伺えるし、ライオンのヒルに対する期待度も理解出来るものだ。

そんな中、1964年1月に録音された「ジャッジメント」はヴィブラフォン奏者のボビー ハッチャーソンを迎えた作品だ。ハッチャーソンもまた同時期にライオンが惚れ込んだアーティストで、ヒル同様あまりにも破格な才能を持ったブルーノートの秘蔵っ子といえる存在だった。ブルーノートにおいてはギターのグラント グリーンとハッチャーソンの二人はカテゴリーを問わずありとあらゆるプレイヤーとの組み合わせを試されたプレイヤー。恐らくライオンにとっては二人の持つ全ての才能を知りつくしたかったのだろう。
ハッチャーソン側から見れば本作もそんな組み合わせの一例であったかも知れない。しかし、ハッチャーソンが持つ、全くそれまでの概念を覆そうとする程の新しい感覚は、ヒルの感覚とあまりにも一致するものだ。その成果が見事に表れた本作が単なる顔合わせとは全く違う、恐ろしいまでの魔力を秘めたものになったのは、どう考えても必然的であったと言える。

しかし、本作を恐ろしいまでのものに仕上げてしまったのは、この二人を支える、というか戦いを挑むスタンスで参加したリチャード デイヴィスとエルヴィン ジョーンズのエグすぎるコンビの功績であるのは言うまでもない。
そのうちデイヴィスはヒルの初リーダー作から2年に渡り、アルバムでは6枚近くの作品に参加している。余程気が合うのだろう。そしてデイヴィスとエルヴィンの名コンビぶりは今さら説明するまでも無い。

そんな特異な天才的プレイヤー4人が繰り広げる「ジャッジメント」は当然ながら全く何のカテゴリーにも属さない超ヘヴィー級の生々しさとこの時代特有の退廃的なムードに覆われた傑作となった。本作の4人の個性はあまりにも似ている。4人共内省的であり、内からメラメラと燃えていくタイプだ。そしてあまりにも自分の音楽を持っている。よって作品自体は寛ぎのかけらも無い、ジャケット通りの暗くて重くて危険な雰囲気に覆われている。この似た個性がバラバラで融合したり格闘したりという、そのあまりな緊張感で息が詰まる様だ。

4人の一瞬に生命を賭けるくらいの真剣な眼差し(本当に見える気がする)と伝統を重んじながらも何かを破壊しようとしている気概には心底から傾聴してしまうしかない。
とはいえ、4人共この地点では自分達の音楽が必ずしも世間に受け入れてもらえないものだとは解っていただろう。実際にヒルの作品のほとんどはセールスには縁が無かったと聴く。

しかし、当時からファンは知っていた。例えば僕が観た映画で使われていた武満徹の現代音楽のふしぶしは本作の持つ音楽性とほとんど一緒だった。
そしてヒル自身は、晩年までたとえ少ないリリースであろうと熱烈なファンに歓迎されながら新作を発表して行った。
「ジャッジメント」はそんなヒルの単なる1枚かも知れないが、我々にとってはとてつもなく有りがたいジャズ史に残る一大傑作として永遠に残るべき記録であるのだ。