第1章

 
 「 ただいまー!」っと姉・陸の声で目が覚めた。


姉は家の近くの私大に通っている。かなり勝気な性格で、しょっちゅうきわどい事を


平気で言ってしまう癖があった。


しかし、姉は誰が見ても美人で、天真爛漫、人も羨むような性格だった。


それに比べて私は、ごく普通のおとなしい夢見る少女的な性格である。


しかし私は昔から要領が良く、人当たりも良かった。


誰にでも好かれるような、得した性格なのだ。


言ってみれば二重人格に近いのかもしれない。


人に嫌われたくなくて、いつも本当の自分の醜い所を隠していた。


家族の前ですら。


一方、姉はとても素直な人だった。


思っていることを全て口に出してしまう。


いや、口に出さずにはいられないのだろう。


人から見れば最高にキツイ人だったに違いない。


そんな姉を私は、もしかしたら僻んでいたのかもしれない。


どこに行っても姉妹は比べられる。


一生、姉は姉で、私は妹なのである。


最後に印象に強く残るのは、姉だ。


私は人々の記憶のどの辺に位置するのだろう。


その頃は自由な姉に憧れていた。


自分も素直に生きたい、と。



勉強をしながら机の上で、居眠りをしてしまったらしい。


広げられたノートの上では、“ be determined to do~ ”という熟語が


よだれで滲んでしまっていた。



“determine“「固い決心」



私には、固い決心などもはやないのかもしれない。


溜め息を吐きながら鏡を覗くと、やはり鉛筆の後がくっきりと私の頬に印刷されていた。


私はまだ眠い目をこすり、頬に刻まれた「固い決心を」拭き消した。


重い足取りで、階段を降り、姉のいる1階のリビングへと向かった。


姉は、テレビを見ながらコーヒーを飲んでいた。


ソファに座り、細く締まった足をテーブルに乗せ、気だるそうに言った。



「あら、寝てたの?ちゃんと勉強しないと、楽しい楽しい大学生になれないわよ。」


「余計なお世話よ。だいたいお姉ちゃんなんてろくに大学行ってないじゃない。」



私は、そんな文句を吐いてコーヒーを入れていた。


「大学なんて勉強するために行く所じゃないのよ。

 もちろんいろんな目的の人がいるから、そういう人もいるだろうけど、

多分ほとんどの人は見つけに来てるのよ。自分のやりたい事。

春は、将来何がしたいの?それが決まってるなら、今受験勉強する必要もないし、

 大学へ行く必要もないのよ。」


私は溜め息をつきながら、コーヒーカップを握り締める。



「でもそれはきっと見つかるの。今までの生活からはぜんぜん考えられないほどいろんな

 
 発見があるんだもの。わかる?」



姉は、どこか切なそうに大人びた感じで私に言った。


しかし、私にはまだ何もわからなかった。


それがまだ子供だと言われているようで、妙にしゃくに触わった。


姉は昔からそんな所があった。


自分は多くの事を知っていて、全て悟っているような、そんな目をたまに見せる。



                               1999.12 作