監督:Bert Stern、Aram Avakian
製作:Harvey Kahn、Bert Stern
脚本:Albert D'Annibale、Arnold Perl
撮影:Bert Stern、Courtney Hafela、Ray Phealon
編集:Bert Stern
音楽:George Avakian

出演:Louis Armstrong、Thelonious Monk、Anita O'Day、
Dinah Washington、Chuck Berry、Gerry Mulligan、
Mahalia Jackson、Chico Hamilton、George Shearing、
Jack Teagarden、Big Maybelle、Jimmy Giuffre

上映時間:86分
製作国:アメリカ
初公開年月:1960/8/19

ドキュメンタリーというものは、それを取材し、
撮影する者の焦点の当て方によって、
様々な切り口がある。

例えば第5回ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルの
模様を収めた、この『真夏の夜のジャズ』という映画。
ジャズや、それを演奏するミュージシャンではなく、
ロードアイランド州ニューポートという
米国東海岸の避暑地と、そこでバカンスを楽しむ人達が、
本作の主役である。
写真家でもあるBert Sternは、そこに焦点を当てた。

この切り口は、例えば市川崑の総監督で制作された
『東京オリンピック』にも取り入れられたのだし、
『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』だって、
『真夏の夜のジャズ』という先達があったお蔭で、
1969年という時代の空気を切り取ることに
成功したわけです。

 

 

1958年に行われた第5回ニューポート・ジャズ祭には、
Miles Davisも出演していた。
その演奏は、かつてはMiles & Monk At Newport
現在はAt Newport 1958で聴くことができる。
そのマイルスのみならず、Duke Ellington、
Dave Brubeck、Sonny Rollinsも、映画からは省かれている。

ブルーベックはあのTake Fiveを吹き込む直前、
マイルスに至っては、John ColtraneにCannonball Adderley、
Bill Evansと、錚々たるメンバーがバンドにいたわけで、
ジャズ・ライヴのドキュメンタリーという視点で
捉えるなら、この映画は失敗作だ。

つまり監督のBert Sternは、これをジャズおたく向けの
映像にしようと思っていなかった。
1958年のひと夏に、東海岸の避暑地でもある
ロードアイランド州ニューポートのヨットハーバーや、
客席で寛ぎ、笑いあう人々の表情を紛れ込ませ、
これがお祭りであることを印象付けている。

鍔広の大きな帽子を被って登場したAnita O'Dayの艶やかさ。
新世代の音楽ロックンロールを携えた
Chuck Berryという異色の存在。
Mahalia Jacksonは物凄いゴスペルを歌って、
客席が息を呑んでいた。

そしてLouis Armstrong。
彼は既にジャズの世界では過去の人となり、
マイルスの一挙手一投足に注目が集まっていたが、
サッチモは歌い、トランペットを吹き、
顔から汗が滴り落ち、それが照明に当たって光る。
ステージに上がれば現役そのもので、
圧巻のパフォーマンスで観る者全てに
「感動」の二文字を焼き付ける。
写真家としての視点から、映ったもの、
映したいもの全てに迫っていた。

しかもジャズおたく向けの映像にしなかったお蔭で、
そうとは知らずに、やがて世界を制覇することになる
ロックンロールを携えたChuck Berryは、
Bob DylanとThe Beatlesの登場で過去の人となり、
ウッドストックではThe Beatlesを木端微塵に砕いた
Jimi Hendrixの雄姿を目の当たりにするのである。

‥という全ての過程を知っている今の視点を持ち込むと、
新たな楽しみが見つけられるし、サッチモからモンク、
ドルフィーまで、当時の新旧様々なスタイルのジャズが
一堂に会したという点でも興味深い。
そしてここに映るアメリカ人は、かつての日本人が
憧れぬいた夢の中の人達でもあって、
1958年のひと夏のジャズ・フェスティヴァルから、
様々なものが見えてくるのです。