1. Hurricane
(Bob Dylan/Jacques Levy)
2. Isis
(Bob Dylan/Jacques Levy)
3. Mozambique
(Bob Dylan/Jacques Levy)
4. One More Cup of Coffee (Valley Below)
(Bob Dylan)
5. Oh, Sister
(Bob Dylan/Jacques Levy)
6. Joey
(Bob Dylan/Jacques Levy)
7. Romance in Durango
(Bob Dylan/Jacques Levy)
8. Black Diamond Bay
(Bob Dylan/Jacques Levy)
9. Sara
(Bob Dylan)

Originally Released Jan. 5, 1976
Produced by Don DeVito

ミュージシャンは列車と格闘技が大好きだ。

ブルースやジャズ、ロックンロールのビートの中には、
アメリカの開拓時代の荷馬車や蒸気機関車の車輪が
ぐるぐると回転するスピードとリズムが入り混じっていて、
蒸気機関車から電車になった今でも、
鉄道の軌条音に原風景を見る。

ところが最近の都会の電車ときたら、
揺れが小さくなったのと同時に、軌条音も抑えられて、
隣の人との会話は容易くなった反面、
音楽的な面白さは潰えた。

一見、能楽や狂言の音楽、虚無僧尺八のような
無拍子に見えて、列車は絶えず規則正しいリズムで
走っているのだから、これは厚化粧をして
顔の皺をごまかしてるようなものだろう。

地方のあまり儲かっていないローカル線は、
軌条音はうるさいまま、いわばスッピンであるところに、
その良さがある。
 

Desire (Reis) Desire (Reis)
 
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このアルバムを作る上でディランの頭にあったのは、
曲をJacques Levyと一緒に作ること、
そしてバイオリンのScarlet Riveraとの
双頭グループということだけである。

より正確に言えば、その2つが定まった時点で、
ディランの中ではこのアルバムの見取図は
ほぼ出来上がり、後はそれを実際に組み立てる作業に
辛抱強く付き合ってくれるミュージシャンだけを残して、
進めていった。

冒頭のHurricaneが、全てを物語っている。
強烈なパワー・ビートの中、黒人ボクサー、
Rubin "Hurricane" Carterが殺人の冤罪で
投獄されたことに対する抗議を、
久々に怒りの表情で、舌鋒鋭くまくし立てている。
強烈なビートの中に言葉を放り込むというのが、
当時ディランのやりたかったことらしい。

Scarlet Riveraのバイオリンは、King Crimsonにいた
David Crossを思わせる、ロック然とした響きで、
しかも彼女にはかなり自由なスペースが与えられ、
アルバム全体を通して、通常のロック・バンドにおける
リード・ギタリストの役目を負っていた。

ジャズとポエトリー・リーディングを結び付けて、
後のヒップホップに絶大な影響を及ぼすことになる
The Watts ProphetsやThe Last Poets、
それにPieces of a ManWinter in Americaといった
傑作アルバムを出したGil Scott-Heronといった人達を、
ディランはどこまで意識していたのだろう。

ストーンズもGoats head Soup辺りから
そういうスタイルを模索するようになる。
ミックが主演した映画『パフォーマンス』のサントラには、
The Last PoetsのWake Up, Niggersが収録されており、
これを彼が聴いていないわけがない。
しかしこの時点ではJames Brownのような
ファンキーなスタイルを弄ぶだけで、
その余波が血肉化するのはEmotional Rescueまで
待たなければならない。

殺人の冤罪で投獄された黒人ボクサーに始まって、
Mozambique、Black Diamond Bayと、
アフリカに因んだ歌が散りばめられているが、
一方でリトル・イタリーで殺されたギャングへの追悼とか、
かつて訪れたメキシコに思いを馳せる歌もある。
そのRomance in Durangoには、沖縄民謡を
思わせる音階が使われていますね。

そしてラストは、自分の元を去ろうとしている
女房のことが歌われている。
(実際、ディランとサラは、この翌年に離婚している)
レノンがヨーコと別居していた時期に歌った
You Are Hereを思わせる。
レノンといいディランといい、日本に生まれていたら、
演歌歌手になっていたはず。
ミックにも演歌趣味はあるが、ここまで女々しくないよな。