Disc 1
1. Rainy Day Women #12 & 35
(Bob Dylan)
2. Pledging My Time
(Bob Dylan)
3. Visions of Johanna
(Bob Dylan)
4. One of Us Must Know (Sooner or Later)
(Bob Dylan)
5. I Want You
(Bob Dylan)
6. Stuck Inside of Mobile with the Memphis Blues Again
(Bob Dylan)
7. Leopard-Skin Pill-Box Hat
(Bob Dylan)
8. Just Like a Woman
(Bob Dylan)

Disc 2
1. Most Likely You Go Your Way (And I'll Go Mine)
(Bob Dylan)
2. Temporary Like Achilles
(Bob Dylan)
3. Absolutely Sweet Marie
(Bob Dylan)
4. 4th Time Around
(Bob Dylan)
5. Obviously 5 Believers
(Bob Dylan)
6. Sad Eyed Lady of the Lowlands
(Bob Dylan)

Originally Released May 16, 1966
Produced by Bob Johnston

Bob Dylanがいなかったら、音楽は、
一部の特権的な人の楽しみに堕していた。
昔学校でクラシックのレコードを掛けられた時の、
あのイヤ~な感じしか、音楽には残らなかっただろう。
エルヴィスとディランは、そういうところから音楽を解放した。

それでいてディランは、音楽の尊厳さも知っているし、
ディランほど音楽に敬意を払っている音楽家も、いない。
ディランは、いわゆる進化論的な立場を取らない。

歌はある日突然降ってくるわけでも、
ましてや神のお告げで出来るわけでもなく、
伝承されているわけです。

何千年、何万年という長い歳月をかけて人が移動し、
移動する中で、ある歌に別の歌が加わり、
そうしてまた他へ加えられていく。
過去に現れた有名無名の音楽家/作曲家/演奏家/歌手、
今いる有名無名の音楽家/作曲家/演奏家/歌手も、
(中にはそうとは知らずに)
皆その作業をしているわけです。

今流行っている歌も、自分じゃ新しいと思っている
歌い回しやフレージングが、伝承されたものを
そうとは知らずに歌ったり演奏しているだけなんだ。
ディランの歌は伝承されたものを現代流に伝承しているのだし、
ディランの歌も、将来ボブ・ディランという名前が
すっかり忘れ去られても、別の形で伝承されていく。

 

 

2枚組である。
しかもラストの「ローランドの悲しい目の乙女」は、
LP時代には、B面一面にこの曲のみ収録されていた。
ロックで2枚組という前例がない上に、
Miles DavisやPink Floydに先駆ける、片面収録という試み。
アルバム1枚聴き通すのもしんどいと言われる今となっては、
サザンオールスターズが『キラーストリート』を
2枚組にしたことさえちょっとした事件になるのだから、
隔世の感がある。

しかもジャケットにはディランの顔写真と
Columbia Recordsのマークしか掲載されていない。
ジャケットを見ればディランのレコードだと分かるから、
それ以外にはいらないというわけだ。

そしてもう1つ特筆すべきは、前作からのAl Kooperとともに、
The HawksのRick DankoとRobbie Robertsonが参加している。
そしてレコーディングは、ニューヨークとナッシュヴィルに
分けて行われた。
ニューヨークのミュージシャンが出している音と、
ニューヨークという環境に飽きていた。
そこでプロデューサーのBob Johnstonが、
ナッシュヴィルでやるよう提案したのである。

このパターンは後に、The Rolling Stonesが、
Sticky Fingersの一部を、
マッスル・ショールズ・スタジオで録音したり、
Paul SimonがThere Goes Rhymin' Simon
やはりマッスル・ショールズで録音したりする
先駆けになったし、本作に参加しているAl Kooperに至っては、
1968年のアルバムI Stand Aloneで、
この時のディランと同じやり方を踏襲してもいる。

ここでのBob DylanとAl Kooperは、Getz/Gilberto
Stan Getzのような立場である。
Antonio Carlos Jobim、Joao Gilberto以下
ブラジル人の名手に囲まれ、アウェイ感たっぷりのStan Getz。
しかし彼は自分のサックスを堂々と吹きこなし、
そこがニューヨークであることを思い出させる。

ディランの背後でオルガンを打鍵するAl Kooperは、
ナッシュヴィルにあって、ニューヨークの水を忘れていないし、
どこで切れるのか予測がつかないディランの節回しは、
正しくAntonio Carlos JobimとJoao Gilbertoを前にした
Stan Getz、或いはパリのBud Powellである。

それともう1つ。
スネア・ドラムのストローク奏法に導かれ、
おどけたハーモニカと管楽器が行進する
「雨の日の女」の出だしが、このアルバムの鍵になっている。

Miles DavisはSketches of Spain
制作にあたって、昔セントルイスのパレードで見た
ドラム・サウンドに言及していた。
スネア・ドラムのきちっとした細かいストローク奏法を、
"歌の矢"と呼ばれるセヴィリアの音楽に用いるためだ。

当時ディラン信望者だったJohn Lennonは、
RainLucy in the Sky with Diamondsで、
Ringo Starrにスネア・ドラムのシングル・ストロークを
やらせていますよね。

必殺のI Want You、そしてJust Like a Woman
凡百のバラードをはるか彼岸にうっちゃって、
なんと胸を掻き毟ることよ。
Just Like a Womanの向うに、Bob Marleyの
No Woman, No Cryが見える。