危険な食品
よりやっかいな男とは。。それは私の老板
のこと
です。当時うちの会社の駐在員は5人ほどいたのですが、私は
最若手でした。それで赴任早々に先輩に耳元で囁かれたのは、
「いいか李明、駐在員で一番若いお前の最大の義務はうちの
老板の面倒をきちんと見ること。もし夜の食事誘われたら
絶対断ったらいかんぞ」と。
その時は私
も簡単に考えていましたので「へえへえそんなこと
でしたらお安い御用で、分かりやした」と安請け合い。
他の駐在員がほくそ笑んでいることには少しも気づいていなかった。
でもそれがどんなことなのか、すぐに分かることになりました。
赴任してすぐに、駐在員全員で歓迎の食事会をしてもらいました
が、その後は当然一人で食事をすることが多くなるんだろうな~と
思っていたら、歓迎会の翌日に早速老板
からお誘いが「お前
はまだ食事環境も分からんやろうから、わしと食事に行くか?」
「はい、全然分かりませんので、よろしくお願いします」
食事の間、老板が一人でよくしゃべることはあったが、酒グセが
悪いわけでもなく、皆がいやがる理由が分からなかった。
ところが、である。なんと老板の夕食のお誘い回数が生半可で
なかったのだ。平日5日の内、実に3回は誘われるのである。
これはさすがに参った、なんか平日は会社でも顔合わしてる
訳だし(実際、老板の部屋にやたら呼び出される)、夜も一緒
となると、なんとうっとおしいことか。加えて、このおっさん
誘って
くる割りには一度もご馳走してくれないのである。これには老板
担当の通訳も「あなたの上司はとてもせこいよ」とこぼしていた。
中国では、食事に誘った人が参加人数に限らず全額払うと
いう習慣があるくらいですからね。
*割り勘はAA制と呼ばれ存在はするが、評判は良くない。
なるほど、皆がいやがってる理由はこれか、それならと。私の
とった対策は、とにかく帰りに老板と顔を合わさないようにする
こと。でも老板の方が上手だった、私の帰りを待っていたかの
ように携帯へラブコール。携帯を無視していたら、今度は部屋
の固定電話へラブコール。どちらかに出るまで延々と掛けてくる。
あんまりかけてくるから、思わず「仕事の緊急事態か?」と思って
とったら最後「今日の飯はどうするんや?( ̄▽+ ̄*)」
この攻撃は、相当なストレスになりましたね。
日本の同僚とかは「中国の生活は大変でしょ~」とか
言ってくれたが、駐在期間を通して、最も大変だったのが、
この人の取り扱いであった。過去、別の駐在員に仕掛
けていた老板の必殺技は、「今、お前の部屋の前にいるん
やけど、今晩の食事はどうするんや」攻撃である。この攻撃
を受けた者は、メデューサに睨まれた者が石になるように、
その日の夜の予定を老板に捧げることになるのだった。
で、ある週末に中国語の勉強時、ユキさん
にボヤく。
: 。。。っていう訳でね、もう大変なのよ。
: ああ、あの蛤蟆(カエル)
のことね。
: えっ?ユキさん、うちの老板のこと知ってるの?
: ちょっとね、なんか見た目も悪人そうだし、大変ね~。
: (この人はCIAのエージェントなのか?)
そいでもって、後日老板と食事の日(相変わらず週3回ペース)
: ねえ老板、私の家庭教師って知ってます?
: おう知ってるぞ、なんか食事作ってもらってるらしいな?
: それはどうでもよいんですけど、なんで面識あるんですか?
: いや、ある時いきなりわしの部屋にやって来てな、日本語
を教えてくれって。どういういきさつで来たのかも分からんし
断ったんだけどな。なんかおまえのホテルで彼女見かけた
からもしやと思ったら、おまえの先生やってるみたいだな。
*当時、老板と私は別のホテルに住んでいました。
確かに彼女は日本語勉強したらしいけど、今は忘れてる
らしくて、私のために思い出してくれようとしてるのかな。
それにしてもなんで老板に頼みにいったのか?また、
どういう経路で老板の存在を知ったのか?う~ん。
彼女の謎は増すばかり、老板の誘いはその後も続くのであった。