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〇あらすじ

12歳の時に交通事故で両親を亡くし、孤独な人生を歩んできた40歳の脚本家アダム。ロンドンのタワーマンションに住む彼は、両親の思い出をもとにした脚本の執筆に取り組んでいる。ある日、幼少期を過ごした郊外の家を訪れると、そこには30年前に他界した父と母が当時のままの姿で暮らしていた。それ以来、アダムは足しげく実家に通っては両親のもとで安らぎの時を過ごし、心が解きほぐされていく。その一方で、彼は同じマンションの住人である謎めいた青年ハリーと恋に落ちる。
2023年製作/105分/R15+/イギリス

※映画.comより抜粋

 

〇感想

名脚本家・山田太一の長編小説「異人たちとの夏」、それを大林宣彦が1988年に映画化した作品のリメイク版です。「異人たちとの夏」は凄く思い入れのある作品です。山田太一の原作となればドラマの「岸辺のアルバム」、「ふぞろいの林檎」などをテレビで観ました。また大林宣彦監督作品は「HOUSE ハウス」に始まり〝尾道三部作〟は全て観ました。(新尾道三部作の一部は未見)まだまだ若輩者だった私に、色々な面で影響を与えてくれた作家と映画監督です。

 

今回の映画「異人たち」は観る前から文句を言ってやろうという意気込みで映画館に行きました。

しかし、それは見事に裏切られ、良い作品に仕上がっていました。言いたいことが多すぎますが、今回は日本映画「異人たちとの夏」とイギリス映画「異人たち」の相違点に着目したいと思います。

 

大林宣彦監督作品の1988年度版をオリジナルとするなら以下が今回の海外版との設定の相違点

です。

・舞台:東京、浅草→イギリス、ロンドン

・主人公の恋愛対象:女性→男性

・季節:夏→冬

 

「舞台が浅草からロンドンへ」

リメイク版はイギリスのロンドンに主人公の高層マンションがあり、実家は郊外の田舎風の住宅街です。その実家は大きな家ではなく、中流のイギリスの方が感じる実家のイメージと思われます。海外の文化なのでここは否定せず、自然に受け入れました。実家の風景は暖色を基調に色合いを統一し、主人公が孤独に住んでいる冷たい高層マンションと対比しています。そしてそこから訪れる主人公を暖かく迎える流れになっています。

日本版は昭和のいわゆる文化住宅で、すごくリアルに住宅の外観、家具、食器まで再現していましており昭和を知る人なら必ずノスタルジーを感じる風景となっています。

 

「男性が男性を愛する」

この映画の主題になるのがLGBTだと思います。今回の映画「異人たち」の映画監督アンドリュー・ヘイ自身がゲイをカミングアウトしています。その為、男性同士の性描写が濃厚ではじめは慣れませんでしたが、そのうちにジワジワと慣れていきます。LGTBについては否定も肯定もしません。私は昭和世代で物心がついた時には、カルセール麻紀さんがテレビで活躍していた時代なので、ご察しください。しかし決して〝ステレオタイプ〟ではなく、時代と共に考えを合せていくタイプです。

ただ主人公が自分の両親にカミングアウトした時に、父は自分の息子がゲイであるために虐められていた現実を知って可哀そうに思う反面、「俺がお前と同じ学年であったら俺もお前を虐めていたと思うよ」と言います。これが正直な思いであり、現実であろうと感じました。

また母は主人公に対して質問攻めです。いつからゲイなのか?何でゲイになったのか?前から少し変わったところがあった、病気は大丈夫?などと体の事も心配します。約30年前はゲイ=エイズという偏見があったので、そのような表現をしていました。これは推測ですが監督がゲイなので自分自身の苦労、葛藤もそのまま映画に投影したんだと思います。

また、日本版の課題は1988年頃の作品なので、「24時間戦えますか?!」、「大統領のように働き、王様のように遊ぶ」といったCMがテレビに流れる時代背景のため、主人公は仕事と家庭のバランスが図れず妻と離婚し、孤独に高級マンションに住んでいる設定でした。ここの比較も面白いところで、国も違いますが映画製作の年代も違うので映画で取り上げる課題も変わっています。

※カルセール麻紀さんは、現在81歳、日本人として初めて性別適合手術を受けた人で、戸籍を男性から女性にしたパイオニアです。

 

「季節がお盆からクリスマスへ」

これも重要なポイントの一つです。日本人にとってお盆は祖先が帰ってきて、手厚くもてなしコミュニケーションを取る儀式です。そのため日本版はタイトル通りに「異人たちとの夏」となり、亡くなった両親が夏に戻ってくるという設定です。一方、海外版の「異人たち」は季節は冬で、クリスマスを家族で過ごす様子が描かれています。海外、特にイギリスでは〝サンクスギビング(収穫祭)〟がないため年間の一大イベントはクリスマスで、家族だけで過ごす事がごく一般的です。そのため夏ではなく、冬のクリスマスの設定になりました。そのほうがイギリス人にとって、しっくりくるのだと思います。どちらにせよ早くに両親を亡くした子供には、どのような季節、場所でも両親と過ごす時間は貴重な、二度とない時間である事には間違いありません。また両親と別れる悲しいシーンは、日本版は浅草の老舗の「すき焼き屋」、海外版はショッピングモール内のファミリーレストランである事も付け加えておきます。

 

音楽も懐かしいエイティーズが満載です。特にフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの「パワー・オブ・ラヴ(愛の救世主)」 は切なく感動的にテーマ曲のように劇中で使われています。

 

映画「異人たち」は亡くなった両親に再び出会い、その両親にゲイである事をカミングアウトし、それを受け入れてもらうという流れです。冒頭にも書きましたが、日本映画「異人たちとの夏」を如何に〝無茶苦茶にしてしまったのか〟確認してやろうと意気込んで観た映画でした。しかし映画を観終わって、ゲイの方たちの苦悩が何となくですが理解できる映画でした。観る者へ色々な課題を突き付けるのですが、分かりやすくまとめた秀作だと思います。

日本映画「異人たちとの夏」を未だ観ていない人は是非、観て欲しいと思います。

 

※参考に予告編を貼り付けておきます。