〇あらすじ
ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキの5つの都市で同時刻に走るタクシーで起きる物語をオムニバスで描く、ジム・ジャームッシュ監督作品。大物エージェントを乗せる若い運転手、英語の通じない運転手、盲目の女性客と口論する運転手、神父相手に話し出したら止まらない運転手、酔っ払い客に翻弄される運転手。地球という同じ星の、同じ夜空の下で繰り広げられる、それぞれ異なるストーリーを描く。
1991年製作/129分/アメリカ
※映画.comから抜粋
【ロサンゼルス】
若い女性タクシー運転手コーキーは、空港で出会ったビバリーヒルズへ行こうとしている中年女性ヴィクトリアを乗せる。映画のキャスティング・ディレクターであるヴィクトリアは、新作に出演する女優を探し出すのに手を焼いていた。口は汚いがチャーミングなコーキーに可能性を感じたヴィクトリアはある提案をする。
【ニューヨーク】
寒い街角で、黒人の男ヨーヨーはブルックリンへ帰るためタクシーを拾おうとするが、なかなか捕まらない。ようやく捕まえたタクシーを運転していたのは、東ドイツからやってきたばかりのヘルムート。しかし彼は英語がうまく話せず、その上オートマ車の運転もろくにできない。降りようにも降りられないヨーヨーは、自分でタクシーを運転する。
【パリ】
大使に会いに行くという黒人の乗客2人の態度に腹を立てたコートジボワール移民のタクシー運転手は、我慢ならず途中下車させてしまう。そこに若い盲目の女が乗車する。当初、運転手は気が強く態度の大きい女にいらだっていたが。だが、彼は障害がない自分以上に鋭い感覚を持つ女には物事の本質が的確に見えているように思え、何とも言い難い強い印象を受ける。
【ローマ】
1人で無線相手にうるさく話しかけるタクシー運転手ジーノは神父を乗せる。そして、せっかく神父を乗せたのだからと勝手に懺悔し始めるジーノだが、その内容はくだらないハレンチな艶笑話ばかり。神父は心臓が悪く薬を飲もうとするが、ジーノの乱暴な運転のせいで薬を落としてしまう。仕方なく神父は、我慢してジーノの懺悔を聞き続ける。
【ヘルシンキ】
凍りついた街で無線連絡を受けたタクシー運転手ミカ。待っていたのは酔っ払って動かない3人の労働者風の男。その中の1人アキは酔い潰れていて車に乗ってからも眠っているが、残る2人はミカに、今日がアキにとってどれほど不幸な1日かを高らかに語り始める。しかし、ミカは今、アキとは比べ物にならないほどに不幸であるがために、彼らの話に動じることはなかった。
〇感想
5つの物語の全てが秀作で、甲乙つけがたい作品集です。個人的にはロス、パリ、ヘルシンキのエピソードが好きです。その感想を以下に述べていきます。
ロスのタクシードライバーを演じるウィノナ・ライダーが初々しいです。若いタクシードライバーですが、自分の人生を既に計画し、ブレない姿勢が好感を持てます。また映画のキャスティング・ディレクター役に「グロリア」のゴッド姉ちゃん、ジーナ・ローランズが演じており、威風堂々としています。そのディレクターが気丈な若いドライバーに翻弄されつつも、自分もリセットされる話の流れが好きです。何かの映画のオープニングのような話で、今後の展開を妄想してしまうような作品でした。
次にパリのエピソードでは、障害者、人種差別、他の課題を観る者に投げかけています。盲目の女性を演じるのが、あの問題作「屋敷女」のベアトリス・ダルが怪演しています。彼女は杖を持って街角に佇むだけでポストカードになるようなスタイルです。その女性にタクシードライバーが、心理的に追い詰められる様は日本の怪談「さとりの化け物」のような話の展開で凄く楽しめました。ラストもオチがついて納得の一品。
最後に、フィンランドの首都ヘルシンキのエピソードですが、これは単純に〝じーーん〟ときます。タクシー内で行われる不幸自慢の話が、寅さんの一人語りを聞いているようで映画に没頭します。しかしその話が嘘であってくれと、観ている側に感じさせる展開は脚本のテクニックだと思います。凄い!
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