「結ちゃん、ちゃんと食べてるの?ダイエットなんてしてないだろうね?
何時に寝てるの?学校の試験はともかく、通信の試験はずらせるんだから、何でこんなになるまでやるの?」
航ちゃんからの質問攻め…
「だって…」
何て答えていいかわからなくて、布団被って(隠れられないけど)隠れようとしたら、「だって、何?結ちゃん?僕はちゃんと、体調崩すから無理しない事って言ったけど?」って言いながら、布団をめくってそれを阻止された。
「結ちゃんのお母さん、すごくびっくりして、ここに電話かけてきたんだよ。その時のお母さんの気持ちわかる?僕の母さんからも、通信の試験ずらすように言われてたよね?」
「うん…。でも、本当に大丈夫だと思ったもん」
「結果、どう?大丈夫じゃないよね。自分の身体大切にしないで、みんなに心配かけて」
「期末試験終わったら、後は通信の試験だけだからって、もうちょっとだからって思ったら、何かホッとしちゃって…」
「ふ~ん。自分の身体にまで嘘ついてたわけだ。こんな検査数値だと、めまいや少しの運動でも息切れしたり、身体からのサインがあったと思うけど?」
「はい…。たまに、ありました」
もうここまで来たら、航ちゃんの目も見れないし、怖くて敬語だし。「自分を大切にしないし、嘘もつく。
『そんな子』は嫌いだな」
それだけ言うと、航ちゃんは何も言わずに処置室から出て行った。
まるで頭から水を掛けられたみたいだった。
『そんな子』…。今までのお説教の中で、ずっと『結ちゃん』だったのに、『そんな子』って…。
どれくらい時間がたっただろう…。気付いたら、点滴もあと少しで終わりそう。(航ちゃん、もう来てくれないのかな)そう思っていると、扉が開く音がして、慌てて頭を音のした方へ向けると、そこには航ちゃんママがいた。航ちゃんママは私が起きているのを確認すると、
「結ちゃん?目覚めた?点滴、そろそろ終わるかなと思って」
「はい…。私寝てました?」
…ってかこの状況で寝る?!私…💧
「うん。少しだけね。航一に叱られたでしょ?涙流しながら寝てたよ」
そう言われると、また涙が溢れそうになる。グッと堪えて、一つ深呼吸して、
「はい。自分の身体に嘘ついて、大事にしない子は嫌いだ…って…」
「航一らしい叱り方ね。私も、主人と航一に叱られたわ。『先生なら、もっと生徒の事考えなさい』って。今回の場合は、結ちゃんが何と言おうと、強引にでも通信の試験を諦めさせるべきだったって。航一にも、『通信が受かっても、期末試験落としたら、どうするつもり?』ってね」
そうだ…。私だけじゃないんだ。私のせいで、航ちゃんママも叱られるハメになって、迷惑、かけて。
「ごめんなさい…。航ちゃんママもみんなに叱られて。何も悪くないのに。私の自分勝手なわがままでこんな事になっちゃったのに…。
航ちゃんママにも迷惑かけちゃって…。ごめんなさい」
「迷惑なんて。私も主人に言われてすごく納得したし。結ちゃんの為を思ったら、試験をずらすべきだったって思う。ごめんね。航一を呼んでくるね。もう一回診てもらわなきゃ」
そう言って、点滴後の処置をして、また出て行った。
しばらくして、また扉が開いて、今度は航ちゃんが入ってきた。
航ちゃんはまだいつものニコニコ航ちゃんじゃなくて、ちょっと怒ってるみたいだった。
「具合、どう?めまいとかは無い?」
コクンと頷くのが精一杯で、何かしゃべると、涙が溢れそうだった。血圧を測って、『うん』と頷いて、航ちゃんは淡々とお医者さんの仕事をこなしていった。
「これからの事だけど…。しばらくは2週間に1回、点滴に来る事。
栄養のあるものをしっかり摂って、しっかり寝る事。
自分の身体に嘘をつかない事。
調子が悪かったら、すぐ来る事。
約束できる?」
(なんだ…お医者さんとしての話か…。)『これからの事だけど…。』なんて言うから、ちょっと期待しちゃうじゃない…(笑)←この期に及んで何を⁉️
「はい。約束、する」
「よし。じゃ、復習しようか」
そう言って私の座るベットの横に丸椅子を持ってきて、腕を組んで座った。「復習?期末試験は終わったよ?」
「ハハハ。違うよ。今日、僕から言われた事。
反省、した?」
「(あ、それか…) うん。反省した。ごめんなさい」
「点滴中、寝てたみたいだけど?それはいいか。で?何に対してごめんなさい?」
「(バレてる…) えっ…と、航ちゃんママにもちゃんと言われたのに、早く合格したいからってわがままで、無理して、自分の身体、大切にしなくてごめんなさい。身体に嘘ついてごめんなさい。みんなに迷惑かけて、ごめんなさい」
と、たくさん考えて判ったごめんなさいを一気に話した。
「うん。そうだね。でも1つ違うよ? みんなにかけたのは、『迷惑』じゃなくて『心配』。心配するのは周りの勝手だけど、でもそれって、周りはしんどいよね。
『心配する事』って立派な病気なんだよ。風邪とかと違って、薬が無いから、治すのにとても時間がかかるんだよ。
今回は、周りのたくさんの人を『心配』って病気にしちゃったんだよ。わかる?」
「はい。ごめんなさい…」
「今回の事でよくわかったと思うけど、試験に合格する事も大事だけど、自分や人を大切にする事や、嘘をつかない事の大切さを、ちゃんと判ってるメディカルケアワーカーになってほしいな。僕は、結ちゃんはそんな風になってくれると思って言うんだけど?」
結ちゃん…。『そんな子』から『結ちゃん』に…。
止まったはずの涙がまた溢れてきて、思わず航ちゃんの胸に顔をうずめた。
「ごめんなさいっ。ごめ…んく、なさい…。航ちゃん」
「よしよし。いい子。今回は結もしんどい思いをしたし、体調も万全じゃないから、これ以上は叱らないけど、本当だったら、厳しいお仕置きだからね。これからは結がわがまま言ったり、悪い子だったら、いっぱいお尻叩いて教えてあげるからね」
「…えっ…。いや…です…💧
(…ってか、結って。呼び捨て?!)」
「嫌なら、叩かれないように、考えて行動しなさい。何が正しくて、何が間違っているのか、自分で判断できるように成長しなさい。
僕は結がちゃんと成長できるように、間違った方へ進もうとした時に、お尻叩いて手伝ってあげる
だけだよ」
「でも、お尻叩かなくっても…。子供みたい…」
「早く『航ちゃんのお嫁さん』になりたいんでしょ?少し痛い思いした方が、1回で覚えられるよ?
ま、同じ事を何回も繰り返すようなら、どんどん厳しくなるけどね(笑)。僕もそうやって、父さんに教えられてきた」
「えっ…。パパさんが航ちゃんのお尻叩くの?いつもニコニコしてそんな風に見えないけど」
「ああ見えて厳しいよ。父さんは。
母さんはそうでもないけどね。
叱るときは恐いよ~。僕だってこう見えて、ヤンチャな男の子だったからね」
「そう…なんだ…。でも航ちゃん、私をお嫁さんにって…」
「うん。結には前に『自分の将来、ちゃんと考えなさい』って言ったよね。そしたら結、迷わずにメディカルケアワーカーの勉強始めるし、母さんは『娘が出来たみたい』なんて言うし。
自分の身体の事も考えずに突っ走って、結局倒れちゃうような手のかかる子、僕以外、誰が面倒見れるのかな?…っていうのは結をお嫁さんにする理由の4分の1くらいかな。後の4分の3は…結、僕も『結の旦那さん』になりたい。ねえ、結?
-結が高校卒業したら…僕の所にお嫁に来てくれませんか?-」
「は、はい。喜んで…。
(うわ。これって?プロポーズだよね?)
とんだ急展開に頭も気持ちもついて行けずに挙動不審になって、やっとのことで航ちゃんの顔を見ると、航ちゃんも顔を真っ赤にしていた。
「じゃ、家まで送るよ。その辺でまたパタリと倒れられたら大変だから」
「あ、はい…」
そして、私は航ちゃんに付き添われて、家まで帰り、航ちゃんはママに検査結果の事、通院が必要な事を全部伝えてくれた。帰り際、自分の部屋で横になっている私の所にもう一度立ち寄って、「結。約束した事、ちゃんと守るんだよ。覚えてるね?」と念押しした。
『約束…』そう言われて、顔を真っ赤にしていると
「…。違うよ。約束。最初にした方ね。ちゃんと通院する事。
ちゃんと食べて寝る事。身体に嘘をつかない、調子が悪かったらクリニックに来る事。こっちだよ」
「
![チュー](https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char3/008.png)
勘違いした事に恥ずかしくて恥ずかしくて、顔を真っ赤にして布団に潜ろうとすると、
「約束破ったら、わかってるね?お尻だよ?」
と小声でささやいて、頭をポンポンとして帰って行った。
次の日からはもちろん、ちゃんと食べて、しっかり寝て、約束通り通院した。…。そう、しばらくは…ね。