大演奏家であることを忘れて♪奇妙な小曲 | コンサートホールのお話など

コンサートホールのお話など

レセプショニストとして働いているコンサートホールでのお話や、クラシック音楽やとりとめのないことなどを綴っています。

東京では慣れない雪に大騒ぎですが、雪のイメージは本当はもっと静かなものであると、わずかばかり経験したことのある雪国暮らしを思い起こします。

自然の厳しさと優しさ、凛とした空気も忘れずにいます。


さて、そんな勝手なイメージと共にもう一つイメージするのがシューマンの「トロイメライ」です。


周知のとおり、「トロイメライ」は『子供の情景』に収められています。この『子供の情景』を書き上げた背景と、その第一声を書きたいと強います。



18371015日。クララはライプツィヒからウィーンへ半年かけての演奏旅行に出かけます。一行は、クララと父ヴィーク、女中の3人だけで、師の元で同居中のシューマンはヴィーク家でお留守番となりました。



この旅行中にも、クララの演奏家としての名声が確立していけばいくほど、二人の結婚への意思に対して父ヴィークの猛反対ぶりは激しくなっていきました。



とはいえ、作曲家としてのシューマンにはヴィークも才能を認めており、ウィーンでも「シューマンの夕」などといった小演奏会で、彼の新作をクララが弾いたりしていました。

文通でさえなかなかままならないなか、なんとか文を交わし、ますます気持ちを固めていく二人。互いの作曲や演奏の近況も伝え合いました。



この頃、弦楽重奏を考えていたというシューマンでしたが、ピアノの魅力とクララが弾く喜びが相まって、今の私たちにも親しまれているピアノの小品の数々が生まれていった時期でもありました。



そんななか、ある日の手紙に次のようなものがありました。恐らく3月辺りではないかと想像します。



「あこがれの心と期待ほどに、空想に翼を与えるものは他にないことを、僕は最近体験いたしました。最近の数日、あなたのお手紙をまちつつ、僕は本一冊を満たす奇妙な楽しいピアノの小曲を作曲しました。

きっとおひきになったら、あなたは目を見はられることでよう。あなたがかつて僕にお書きになった言葉の、山彦かもしれません。……僕はあなたにとって、きっとときどき子供のように見えたでしょう。いずれにしてもそれが霊感になって三十ばかりの奇妙な小曲ができました。そのうち十三曲を選んで『子供の情景』と名付けました。

 きっと喜んでひいてくださると思いますが、あなたは大演奏家であることを忘れてくださらねばいけませんよ。こんな題がついています。

「お化け」「炉辺」「鬼ごっこ」「木馬の騎士」「見知らぬ国から」「不思議な話など」……」


また後には



「私はこの小曲が非常にすきだ。自分で演奏すると非常に感動をあたえる。ことに自分自身に」と伝えています。



これが、『子供の情景』の旬な状況だったそうです。では、シューマンの手紙の意味がわかるよう、次に続きを書きたいと思います。そして更に、クララ自身はこの作品をどう受け止めていたのかも、少しずつ紹介していきたいと思います。