ツィメルマンのリスペクト | コンサートホールのお話など

コンサートホールのお話など

レセプショニストとして働いているコンサートホールでのお話や、クラシック音楽やとりとめのないことなどを綴っています。

ツィメルマンの公演に行ったと一つ前の記事に書きましたが、続きです。


プログラムが配布されてもされなくても、私は売りプロはだいたいは買うのですが、ツィメルマンのは初め、開けてみて少しがっかりしました。だって本人の言葉が載っていないと思ったからです。




ですが、よく読んでみると、音楽評論家の青澤隆明氏の文章が載っていて、恐らくはインタビューを通じてツィメルマン自身が語った内容をできるだけそのままの言葉で伝えているもののようでした。


インタビューは、ジャパンアーツさんのHPでも紹介されています。昨年夏ごろに行われた対談だそうです。(45分少々の対話の全内容)


インタビューはこちら


青澤氏の記事で、ツィメルマン自身が青澤氏に「この対話はできるだけ編集せずに、そのままを掲載して欲しい、と最後に念を押した」とあるので、ましてや私が変に伝えてはいけませんので、興味ある方は是非ぜひ上のリンクから直接ご覧になってください。


そこには「ひとりの人間としての理解の深まりが、3つのソナタとチクルスという果敢な探求を動機づけるのだが、そこにはいくつもの難関が深刻に立ちはだかっていて、自分は今や恐れや苦悩を抱えている、ということをツィメルマンは語っていった。」とあります。


深く感銘を受けるインタビューでした。


導入部で青澤氏のとっさにしてみた質問「思いと表現のはざまに人生はある」というルー・リードの詩のなかの鋭い一行について「まさにそのとおりだ。アイディアとそれを表現することの間には何光年もの隔たりがある」という答えも印象深いです。


ベートーヴェンが亡くなったのは、57歳。実年齢の符号があってこそ、初めて後期3大ソナタを取り上げる機が熟したと思え、ツアーのさなかに57歳を迎え、更に一歩踏み出す。ツィメルマンも「今でしょ」だったわけです。


その始まりの準備段階で「ベートーヴェンの巨大な作品世界を前に、実演への不安を抱えているひとりの人間として、その姿を率直に伝えてほしい。」と青澤氏に伝えた巨匠。


あの鳴り止まない拍手、日本の聴衆から、直接彼の仕事に心からの賛辞を送れたと思いたいです。そして彼自身のこのツアーで感じたことのお話を、またどこかで目にすることができたらいいな~と思います。