最近、身辺の環境に色々とあって、4月は家族の新年度スタートとも重なって、ずっと走り続けている感じがしています。こんな気忙しない時は、返ってゆったりとした音楽に耳を傾ける気分にあまりなれないことがあります。
そんなとき、私の手元に来たCD。買ってから少し経っていましたが、最近になって初めて聴き、とても気に入りました。
ゲキチが弾く「音楽の夜会、ウィリアム・テル序曲」
これはNAXOSから出ている『リスト・ロッシーニによる編曲集Ⅰ』のCDです。1996年、ブダペスト、聖イシュトヴァーン音楽学校コンサートホールで録音。
「音楽の夜会」は、今アタフタしている私と一緒に伴走してくれている気がします。決して出しゃばらずに時に声を掛けてくれたり、時にドリンクを差し出してくれているような。アロマオイルでいえばローズマリーの香りのイメージがします。
CDの帯の解説によりますと、この「音楽の夜会」は、”歌劇作りから引退したロッシーニが作った傑作歌曲集”を、リストが1837年にピアノ用に編曲を発表します。”原曲の順番をリストなりに入れ替え、いたずらに華美にせず、原曲の歌謡性・ドラマ性をじっくりと味わう名編曲となりました。”と、あります。
9番目の「踊り」など、クラシックファンならずとも、どこかで一度は耳にしたことがあるのではないかという馴染み深いメロディーもあります。(ロッシーニですからねぇ…全部そうなってしまいそうですが。笑)
そして、誰もが知っている「ウィリアム・テル」序曲も、帯が”リストの超絶技巧が思う存分爆裂します!”で締めくくられています。確かに技巧的には爆裂しているのですが、その言葉自体の持つイメージよりももっと品のいい感じがします。
ゲキチの演奏は私個人的には、とても繊細でラインが華奢な感じですが、でも地味な感じがせず、粒の美しく揃っているのには感嘆、裏切りのない安心感があります。一流の演奏家だけど身構えて聴かなくていいような不思議な感じがします。今のドタバタしている私にはさり気なく心地よい気がします。
ゲキチは1999年にマイアミ国際ピアノフェスティヴァルに招かれましたが、今まさにステージ出るという時(舞台袖、ということですよね)、故郷のノヴィサドの町が戦火に包まれていると知ったそうです。NATOのユーゴスラヴィアへの攻撃が始まったのです。ゲキチはそのままステージへ出て演奏をしたのですって。
この時の演奏はこれまでの最高であったと伝説になり、ピアニストとして世界で揺るがない存在になったそうです。泣けるお話です。
さて、私は生活がちょっと落ち着いてきたら、何を聴きたくなるか我ながら楽しみです。やっぱり、ロマン派のスローテンポの泣ける曲かもしれません