1ベル | コンサートホールのお話など

コンサートホールのお話など

レセプショニストとして働いているコンサートホールでのお話や、クラシック音楽やとりとめのないことなどを綴っています。

演奏会で、開演を知らせるベルが鳴るのはご存知のことと思います。遅れそうな駆け込み客に対しては、チケットを切る段階などで「まだベルは鳴っておりませんので、ごゆっくりとお進みくださいませ。」という風に、状況をご案内すると、具体的にわかっていただけて効果があります。


この、間もなくの開演を知らせるベルのことを、業界用語で1ベル(イチベル)と言います。開演というのは、プログラムの前半でも、休憩後の後半の前でも同じで、1ベルと呼び、2ベルや3ベルという言い方はしません。


だいたいの人は、このベルを目安に、お座席に着いていただけますが、「まだ大丈夫」とお思いになって、なかなか客席にお入りいただけないことがあります。


バーコーナーのご利用や、混雑が緩和されるのを狙ってのお化粧室、あるいはショップやCDなどの販売コーナー…。ただのおしゃべりの盛り上がりetcです。


しかし、コンサートホールでは、このベルでスタンバイOKに持って行く体勢をとります。客席の扉も閉められて行きます。喫煙所のある所ですと、「頼む!一瞬で!」と駆け込んでいらっしゃることもありますが、本当はそこもアウトです。


どうか、ベルを聞いたら、即、客席へとお願いしたいですね。ロビーが混雑していて、時々1ベルが聞こえない、ということもありますが、一斉に周囲の人が客席へと動き始めたり、混雑していたロビーが急に閑散としたり、なんとなく雰囲気が変わりますので、その時は「1ベルが鳴ったのでは?」と、意識を向けてくださいね。


また、1ベルが鳴っても客席外にいらっしゃるお方には、レセプショニストが「間もなくの開演でございます。お早めにお席にお戻りくださいませ。」と、言ってお知らせしてまわります。お化粧室にまで、登場します!個室が使用されていれば、スピーカー的にお声を掛けます。(笑)そこまで、必死に徹底させるのです。


もし、間に合わなければ、途中入場となってしまうからです。特に後半は途中入場のタイミングのない曲もあります。

「しつこくて面倒だな…。」

「わかってるから、もうちょっとしたら戻るよ。」

と、お思いになることでしょうけれど、宜しくお願い致します。


ちなみに、この1ベル、5分前ということが平均的ですが、必ずしも5分前とは限らない場合があります。もちろん、押して(遅れて)始まることはよくあるパターンですが、反対に、ベルでなるべく早くお戻り頂き、客席が整い次第、始まる、というコンサートホールもあります。そんな場合はアーティストのモチベーションまでかなり左右されてしまいます。


先日、私の体験では、休憩がもう間もなく終わろうかという時に、客席内のお客さまに「何分まで?」と聞かれ、「もう、間もなくでございます。」と、何分とお答えするに至らない場合のお決まりのお応えをしたのでした。


すると、「間もなくって・・・!?」

「そんなことないだろう。」というようなことを呟かれ、冷やかな視線を残して客席外へ出ようとなさいました。ところが、扉の外に出るか、出ないかのタイミングで1ベルが鳴り、5分と待たずに開演しました。


そのお客様は間に合って良かったですが、これがエントランスでのやりとりで、外出なさったら、と思うと危ない所でした。


客席の完全に落ち着いた状態で始まる演奏会の方がきっと、演奏する側にとっても気持ち良いことでしょう。実は、指揮者や出演者は、結構客席の様子を窺っている者です。まだ椅子に座るか座らないかのお客様を舞台上で待っている出演者もしょっちゅうあります。


会場全体が一体となった演奏会の雰囲気には大切な「1ベルで速やかに着席する。」でした。