第47回 ロバート・J・ソウヤー『ヒューマン -人類-』 | 不快速通勤「読書日記」 ~ おめぇら、おれの読書を邪魔するな! ~

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読書のほとんどは通勤の電車内。書物のなかの「虚構」世界と、電車内で降りかかるリアルタイムの「現実」世界を、同時に撃つ!

もしかしたら・・・、
と思って暗然とする。

いや、むしろ合点がいく。

通勤時によく遭遇する
「赤の他人にまったく気を遣わないタイプ」のひとたち。

かれらはもしかしたら・・・いや、
ほぼ確実に、
自分の行動を「賢い」と思っているのではなかろうか。

たとえば、いつでもどこでもどんなときでも、
目指す地点まで最短のラインを突っ切ろうとする
「最短距離主義者」。

公共の場で、これはときに、非常に危ない。
お互いのわずかな「譲り合い」「迂回」で成り立っている
「円滑な流れ」を、まさに一刀両断にしかねない蛮行といえる。

こういうひとたちにたいして、おれは、
「公共意識が低い」「気力・体力に余力がない」「想像力がない」
などといった「マイナスの評価」を(内心)抱いていたのだが、
ところが、どっこい、さにあらず。

当の本人はもしかしたら、
そういった自分の行動(またはポリシー)を
極めて賢いものと自己評価しているかもしれないのだ。

歩行エネルギーを節約しているという意味での
優れた「エコロジスト」として。

あるいは、

他者・周囲の存在・行動に左右されない
堅固な「信念の持ち主」として。

相手をどかすことにより、
「よし、勝った!」と自分を褒めている可能性もある。

一方が「いつか自分の愚かさに気づいて治すだろう」
と思っているような行動パターンを、
もう一方は、日々たゆむことなく「賢い行動」として積み重ねているのだ。

永遠の平行線だわ、こりゃ・・・。


・・・・・・。


自分たちのことを傲慢にも
「ホモ・サピエンス」(知恵あるヒト)などと呼ぶ
こちら側の人類にたいし、
強烈なアンチテーゼをもたらす存在として描かれている
「ネアンデルタール・パララックス」シリーズのネアンデルタール。


その第2巻が本書ヒューマン —人類—』だ。
(ロバート・J・ソウヤー著 内田昌之 訳)

第1巻『ホミニッド』で提示されたテーマが、
より深く展開される。

・・・という言葉で片づけると抽象的すぎるか。

でも説明しすぎるとネタバレになってしまうからな。

んんん・・・、本書ではさらにさらに、
世界観が異なるが故の魅力的なディテールが押し寄せてきて、
まったく予断を許さない、という表現に留めておこうか。

とにかく、ホモ・サピエンス同士なら決して起こりえない種類の
「事件」が次々に勃発するのだ。

でも、もうちょっとだけ言わせてもらうと、
主人公のポンター・ボディットは、
再び訪れた「サピエンスの世界」で、
なにやら重大な「罪」を犯したらしいのだ。
そのことが思わせぶりに示唆されつつ、ストーリーは進む。

ポンターは「こちら側」の世界でなにをやらかしたのか・・・?

それはのちのち明らかになるのだが、
第2巻の終盤にこういう展開になると、
誰が予想できただろう?

さらには、第1巻でも俎上に乗せられた、
「死後の世界を信じるが故の残虐さ」
が第2巻でもさらに辛辣に展開するし、
(しかも、是・非がちょっと揺らぐ)
農耕文化が優れていて狩猟・採取文化が劣っている、
という一般の世界史的なイメージが、
覆される討論もエキサイティングだ。
(しかも討論の主導権を握っているのは
こちら側の世界のマイノリティー民族だったりする)


それと、ホモ・ネアンデルターレンシスと
ホモ・サピエンスとを分つ遺伝学的な「差異」に関しても
あくまでもSF的な設定/想像だと承知しつつも、
その衝撃的な説明内容に舌を巻いた。

旧人と新人の違いって、「それ」なのか!!
(・・・って、あくまでも作品上の設定なんだけどね)

でも、これが説得力あるんだ。
それこそが真相じゃないかとも思えてくる。
(その「真相」に思い至ったときのメアリの連想内容が秀逸!)


また、本書の原本は2003年の刊行なのだが、
そのあたりの世界史的な「できごと」が
随所に反映されている。

ポンターが飛行機に乗せられて
ニューヨーク市の上空を飛行しているときの挿話。

ゆうべ、戦争についてさんざん聞かされたあとで、百科事典のニューヨークの項目をのぞいてみたのだ。大きなランドマークがたくさんあるらしいので、空からのながめはすばらしいものになるはずだ。目でさがしてみると、気むずかしい顔で、たいまつを高々とかかげた、巨大な緑色の女性の像があった。だが、いくらさがしても、周囲の建物のなかから突きだしているはずの、それぞれ百十階建てという信じがたい高さのふたつの塔を見つけることはできなかった。
(略)
「ああ。世界貿易センターのことですね。(略)あれはテロリストによって破壊されました」
(略)
どうやってビルを破壊したんですか?」
(略)「燃料を満載した二機の大型旅客機をハイジャックして、ビルにつっこんだんです」
 ポンターは返すことばを思いつかなかった。



この第2巻では、第1巻で描かれていた、
ネアンデルタールから見た「サピエンスの世界」と、
ネアンデルタールから見た「ネアンデルタール世界」だけではなく、
初めてサピエンスから見た「ネアンデルタール世界」
も描かれることになる。

その世界はどう映るのか。
果たしてサピエンスはそこで暮らしていけるのか?


なお多くの伏線を残しつつ、
いよいよ最終巻の『ハイブリッド』に進む!!!







ヒューマン -人類- (ハヤカワ文庫 SF (1520))