家にあったので読んでみる。

まず、私の勝新太郎氏へのイメージというと、やはりワイドショーを騒がせた事件のことや、奥さまである中村玉緒さんのバラエティー番組での活躍である。

座頭市で有名なこと、俳優さんであるということはわかっていても、実際の映画はみたことがない。(*1970年代までは映画やドラマによく出ている。その後は散発的。)

 

でも、この本はそんな勝新太郎氏のほんとうのところを見せてくれる。そして、映画を観たくなる。まず冒頭から、なんだか暗示めいているのだが、そこで一気に引き込まれる。

 

この本を読んでいると、見たくなる映像が数多く紹介される。とくに心躍るのは、才能と才能のぶつかりあうシーン、実験的な映像のドラマ、頭の中で映像を思い描いてみる。
 

「偶然生まれるものが完全なものだ」の信念のごとく、台本がないままに出来上がっていく映像。勝氏の「頭の中のデッサン」を作り上げていく現場。

 

テレビドラマ『新・座頭市』第十話「冬の海」

少女「てん」役 原田美枝子

 


 

 
剣での一騎打ち、これも映像で見てみたい。
 
剣豪役者、近衛十四郎との共演。殺陣の技術の共演である。
 
映画『座頭市』十七作目「座頭市血煙り街道」

 

 

 

 

 

即興演出で、雪を探しに福井県まで行っての撮影。

雪の中で最後まで考え抜いたラストシーン。

 

テレビドラマ『座頭市物語』第二十三話「心中あいや節」

 

はなれ瞽女(ごぜ)役、浅丘ルリ子

 

 

 

 


 

 
また、本を読んでいてわくわくするのである。勝氏のストーリーはすごいのである。次に何が起こるのか、次々とページをめくりたくなるのである。
 
映画界の華やかな時期、没落、そして、活躍の場を失っていく勝氏。これが、なぜ起きていくかが書かれている。心に残る映画が作られる時というのは、まさにスタッフと一体になっての幸せな時間ということも。そして、それは奇跡ともいえるのかもしれない。ほとんどの映画は予算や期限によって、ある程度の妥協のもとに作られているだろう。きっと、映画で満足がいくまで撮れるというこというのは、ほとんどないのかもしれない。もちろん、そういった制約の中で逆に工夫してうまくできていく映画もあるのだろうが・・しかし、ゆるされる時間やお金があって、そして、勝氏のような才能とよりよいものを求める魂とそれに呼応するスタッフたちがいて初めて成立した映画たちがここにはある。

 

勝氏はこだわりぬいた。そのことは、映画会社の没落とともに時代と合わなくなる。また、映像世界に没頭し、自分自身や周りとの折り合いをなくしていった勝氏の一面なのかと思う。もっと、楽に生きる方法があっただろうに、と傍目には見えてしまうが、そうとしかきっと生きられないのが勝新太郎氏であったのだろう。

でも、ここまで魂を込めて、演じること、映像にこだわりを見せた人の映画は見てみたいなと思う。

 

(過去ブログより)