ここのところの心のわだかまりが解消し、後は実行するのみ。まず、人は食べていかなければならないから、仕事は外せない。

でも、仲間のおかげで、自由に使える休日を丸一日得た。まるっきり一人の時間を持てるのは、これぐらいならいい方だろう。その日に『妖精の書』の読解に励めばいい。

しかし、そんな堅苦しい休日にはしたくない。『妖精の書』の読解に限ることは無い。

寄り道があってもいいじゃないか。調子が悪い日は、根を詰めず休めばいいし。別のことがやりたければやればいい。

でも、周囲を見渡すと、今の時代、誰もが忙しくて、容易く寄り道なんてできないようだ。だからこそコウは、この一日を、人、本来の自然な活動に当てようとした。また、時間度返しで、丁寧に生きようと思った。

 

さて『妖精の書』の読解の日、ケンもそれに加わった。ケンはこの日を除いて、自分の小説の執筆をしていたが、その内容は、確実に『妖精の書』の影響を受けていた。『妖精の書』の体験は、無尽蔵のアイデアの宝庫だとケンは言う。

 

それはともかく、コウは、ふと、コッコのことが気になった。そう仕事でつまずいたコッコのことだ。ちゃんと静養しているのだろうか。この後、コウはケンと一緒に、コッコのお見舞いをすることにした。コッコの家はスーパーマーケットの二階に立てた小さな家だった。

 

          *

 

 コッコは具合が悪そうだった。仕事場の上に家を建てたのがよくなかったのかもしれない。どうしても気持ちがスーパーマーケットへ向いてしまう。今は仕事から距離を置くべき時なのに。

 

「悪いね。今日は丸一日、自由な時間だったのに」コッコは言った。

 

「僕の家で静養しなよ。3人じゃちょっと狭いけれど楽しいぞ。合宿だ! 『妖精の書』の読解も捗るかもしれない。「三人寄れば文殊の知恵」とも言うし、何よりも、コッコの気がまぎれるだろ」コウは言った。

 

「そうさせてもらおうかな」コッコは少し明るい顔をした。

 

「女同士の会話ってものがあるけれど、男同士にも同様にある。ふざけ合う仲と言おうか」コウが言った。3人はたいへん愉快な気持ちになった。

 

 コウとコッコにケン、3人は同じ釜の飯を食べる仲になった。共通の話題と言えば『妖精の書』のことだ。コウとケン、ふたりの時よりもコッコが加わったほうが話が深くなる。

コッコは古くからのコウの話の聞き役だった。過去に漁師だったコッコは、『妖精の書』の話しはもちろん。人知を超えたものへの好奇心は人一倍強かった。よって、たいていの話しが受け入れられた。

 

          *

  

ある休みの日のことである。3人の頭の中は、それぞれ孤独に作業していたが、時々話し合った。

 

「『妖精の書』を貫く大きな哲学があるような気がするんだ」ケンが言った。

 

「僕もそう思う」とコウがうなずいた。

 

「例えば、「逃げる」とか「受け入れる」とか、なんだか消極的だけどね」ケンは頼りなさげに言った。

 

「でも一心にそうすると、逆に最強の積極性を発揮する。僕も過去に思ったんだ。そしてそれを、開き直りの哲学と呼んだ。(第14話)でも開き直りとは違うような気がする」

「そう、 何かに任せきれるという安心感 が、結果を反転させるのだと思う。」

「合点がいかないことからの積極的な逃げ、あるいは、起こってしまったことを、天命として受け入れるということは、これ以上ないほど、天からの支えが得られるということだ」

「未来を予断してそれを信じることすらいらない。それは返って裏切られた時のダメージが大きすぎる」コウが言った。

 

「こんな例え話もあるよ。さいころふりと出た目の例えさ。良き遊技者は、出た目の偶然性と必然性を一回で肯定する。悪しき遊技者は、望んだ目が出るまで、何回でもサイコロを振るという例えだ」とケンは言った。

 

 コッコがベッドに横部背で、それらを聞いて言った。

「今日のコウは頭が冴えているな。ケンはさすがに博識だね」

 

          *

 

 コッコは順調に回復した。来週から店を開けるという。「もっと便利な村へ」がスローガンだったが、とりあえず現状維持で行くことにした。余裕ができた頃に、次のステップへ進もうと考えた。

 

コッコは、今日、自分の家に戻って開店の準備に取り掛かった。今やスーパーマーケット『COCO友』は、村になくてはならないものだった。開店セールには、村では多く消費されるイカを安くして出すつもりだ。村人は、イカを好んで食べた。

 

「今度は、あまり焦らずに、丁寧に仕事をするつもりだ。コウとケンとの休日の読書会は有意義だった」とコッコが言った。古語が読めないコッコも『おじいさんのノート』を読みあさった。コッコは学んだし、早速仕事のスタイルに取り入れたいと思った。

 

 前話で取り上げた、『からくり心のお告げ』はコッコの心に反省的にしみ込んだ。もっともっと店をオートメーション化しようとしたが、からくりが丁寧に仕事をしてくれるかというと、答えは疑問だ。あるいは、「からくり心」に蝕まれた人が「からくり」を使うと「からくり」はそこそこの仕事しかしないのじゃないだろうか。結局、人の仕事が一番だ。