コウはご存知の通り、良くも悪くも、いまだに子どもの心を持っていたので、『妖精の書』のようなものにのめり込んだのかもしれません。まあ人それぞれ、もちまえの心が違うので『妖精の書』は人を選ぶのでしょう。『妖精の書』が代々同じ家系につがれてきたというのは、『妖精の書』が反応する血筋があるということなのかもしれません。
ヨナは大人の代表です。理性的過ぎた。それで『コード』のような組織に狙われたのかもしれません。
あれから三人の家には、『コード』という組織からの手紙が届かなくなりました。幻だったのでしょうか。
ヨナも少しずつですが元気を取り戻しました。『妖精の書』のお告げは効力を発揮したのです。
『妖精の書』のお告げは、まさに、ヨナの、失いかけていた希望を引き出し、彼女を救い、癒やし、コウとコッコに迫る脅威をも払いのけたのです。
コウはあれから、『妖精の書』に見つけた『コード』の脅威に関係する、いくつかの新たな見出しの項目についても、目を通しました。
コウは『妖精の書』を、ほんの少しだけ自分のものとすることができたように思いました。彼はそれを用いて、自分とふたりの友達を救ったのです。
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村の人々にも『コード』からの手紙が届いていたようです。コウは、改めて火消しに追われました。村長は、コウのおじいさんから一代空いてしまった穴を埋めるように『妖精の書』の復興を目指し、『妖精の書』からお告げを聞いてくれと言いました。
さて『妖精の書』が、どうやってお告げをするのかが分かった。困っている項目を読んで改めてその項目に書かれた内容を、各人、理解すると、お告げは成就されたものとして文言が青く明滅するのだ。そして、『コード』という特殊な組織にさえお告げがある以上、あらゆる問題、特に自由に関する問題に、この書の目的は特化されているのではないでしょうか。
『コード』という組織も、未来を固定するというやり方で個人の自由を阻もうとしたのかもしれません。
自由を阻もうとする勢力は『コード』のように外にもあるのですが、多くはその人の意識の中にも存在する。現代の飛ぶ鳥を落とす勢いの科学主義が、そもそも、その内部に不自由を招く要因をはらんでいるのではないだろうか? もちろん科学主義が頼りにしている、理性は何よりも大切だ。
だから、理性と、『妖精の書』のお告げは大事な車の両輪なのかもしれない。昔の人は良く分かっていたのだ。何が欠けると問題なのかと。『妖精の書』のお告げは昔の人にとって欠くことができないものだったのだろう。現代は理性ですべてを解決しようとするところに問題があるのかもしれません。理性と『妖精の書』の、二つどころか、もっと別なものを複数用いて、思考ができる必要があるのかもしれません。
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ある心の晴れない日。コウは『妖精の書』の適当なページをめくってみました。そしてまっさらな心で読んで理解してみると、文言は青く明滅した。にわかに心の雲は晴れて、すがすがしい気分になりました。理性は大事だが、『妖精の書』のお告げは、理性におおわれた現実の生活では気づかない、心のありようを提示してくれるのだ。
昔に比べ、村人たちは「忙しい。忙しい」といっては自由な時間を欲しがった。理性は効率化を望み、便利な機械によって、時間が空くはずなのに、まだ足りない。まだ足りないと人々は言う。
『妖精の書』の「効率の罠」という項目には、こうお告げがある。「理性は効率を追う。効率は大事だがその虜になると、やがては心が乱れ道を踏み外すだろう」そんな人の理性に、「少しばかり、短気になっていませんか?」と言いたいのだろう。理性は壊れた機械のように効率を追求する。理性とはそうゆうものかもしれません。
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コウは今日の畑仕事を休んでいました。あまりにも外が暑かったからです。森の中の我が家で涼みながら妖精の書を読んでいました。村長が、「一代の空白を埋めるためなら、妖精の書のお告げにお金を出す」とまで言ってくれたからです。お金は、まあ少しです。だから、仕事を辞めるわけにはいきません。
いつものように、ヨナは学校の仕事を終わらせるとコウの畑に向かいました。しかし、畑に誰もいないのを見てとると、「コウが仕事をさぼっている」と直感して、コウの家を訪ねました。案の定コウは森の中の我が家で、涼風に吹かれて、鼻風船を膨らませながら昼寝をしていたのです。
ヨナは激怒してコウの尻を叩きました。
コウはびっくりして起き上がりあたりを見ると、ヨナが角をはやして怒っています。まずいところを見られちゃったなあと思い、コウは畑仕事の準備をしました。寝ぼけ眼でジンジンする自分の尻を覗くと彼の尻にはヨナの赤い手形が残っていました。
さあ今日も仕事です。「働かざる者、食うべからず」とヨナはいいました。ヨナが言いそうなことです。『妖精の書』に熱中するあまり、「食べる暇もないぞ、少しは休ませろ」と、コウは思いましたが、言葉にはしませんでした。ヨナは昔と違って、コウに対してすっかりお姉さん気取りです。
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さあ仕事も終わった。自由な時間だ。コウはパンをかじりながら、いつものように『妖精の書』を読みふけりました。すると、労働という章にたどり着きました。
「過労するものは何に従っているのか? 労働は、賃金を伴うもの、または、無償労働を含め、人の社会には、なくてはならないものである。しかし自分の分を越えてまでなすべきものではない。命にとっては、世間での能力の有用性は、かえって命を縮めることにもなりかねない。よくよく心と相談しながら考えて労働せよ」と書いてありました。
すると、すかさず『妖精の書』に、かすかな青い光が差して、そこに書かれた文言が明滅しました。コウは理解しました。