いよいよ決戦の場へ、乗り込もうとしたボクチンたちだが
ひとつ見逃したことに気付いた
あれ・・・?一人足りない・・・
なんさんにきいてみた
「なんさん ゼータさんがいないみたいだけど」
「あの人も行くっていってなかった?」
なんさんは振り返って
「そうなの、ゼータさんは今、応援をよんでくれてるの」
「ちょっと遅れるけど、力強い味方をつれてくるって」
なるほど
「じゃあ、まちます?」
「う~・・・ うん そうしたほうがいいかなあ」
ボクチン達が話し合っているとき
武道館からもれてくる歓声がピタリと止まった
あの巨大な建物から、想像のつかないほどの静けさに、激しい違和感を感じる
「これは・・・」
部長が険しい顔で言う
「はじまってしまったのかもしれない・・・」
ミコシさんがこたえる
「そうですね・・・これは急いだ方がいいかもしれませんね 部長」
「うん・・・そうだねミコシさん」
「ゼータさんには悪いけど・・・」
「このまま突入しよう」
なんさんも無言でうなづく
「行こう」
部長につづいてボクチンたちは、武道館入口の緩い階段を踏みしめた
しかし・・・おかしい
中からは、あんなに大きな声がきこえたのに まわりにはひとっこひとりいない
武道館の重く機密性の高いドアをおしあけると
ズズズズッ と空気がすいこまれる音が響く
ボクチンは、巨大な怪獣の口に呑み込まれるような感覚に、ぶるぶるとみぶるいした
武道館に侵入したボクチンたちは、そこにひろがる異様な光景に
アングリと口をあけ、かたまってしまった
エントランスホール一面にビッシリと、数え切れないほどの人影が立っていたのだ
声もあげれず、たちつくすボクチンらと同じように
その無数の人影たちも微動だにしない
それもそのはずだ
エントランスホールを覆い尽くすように、「置かれて」いたのは
等身大のフィギュアだったのだ
それも、ただのフィギュアではない
ありとあらゆる世代の人が見ると、感動するであろう
ヒーローたちのフィギュアなのだ
ウルトラマン 仮面ライダー ガッチャマンに筋肉マン
孫悟空に麦わらのルフィ
スーパーマンにスパイダーマン
セーラームーンからプリキュアまで
古今東西、老若男女が
夢に見て、あこがれたヒーローたちが ズラリと立ち並んでいたのだ
そのなかでも、中央にある巨大なフィギュアの
圧倒的な迫力に、ボクチンたちは気おされてしまいそうだった
アナハイムエレクトロニクス社製造
地球連邦軍を救った ヒーロー的モビルスーツ
RX-78 ガンダム である

さすがに実寸大の18mとは、いかないが
エントランスの天井に届くほどの巨大な姿は
造り物のフィギュアながら、威厳すら感じさせた
「すっ!すごおおおいいっ!!」
ふろしきさんが興奮して写メをとりはじめた
・・・
「すばらしいでしょう 私がよみがえらせたヒーローたちは」
ふいに、後ろからかけられた声に
ボクチンたちはふりかえった
そこに立っていたのはゼータさんだった
ゼータさんはエントランスの入口のドアのカギをしめ
足でけりつぶした
おどろいた部長が声をかける
「ゼータさん・・・ゼータさんがよみがえらせたって どういう・・・」
「なんでカギをこわすんですか?」
「それは、だれも入ってこれないように・・・と」
「皆さんを にがさないようにですよ」
ゼータさんは、ゆっくりとボクチンたちの横を通り過ぎる
「!?」
「虐げられた者、自分の無力さを嘆く者、力を手に入れるために集まった人たちを迎えるのには
最高の出迎えでしょう?」
ゼータさんはニコリと笑った
「ゼータさん・・・あなた まさか」
なんさんがアヤさんを気遣いながら、問う
「なんさん・・・私もね、一緒なんですよ」
「あなたがた ヒーローの背中を見て 自分の無力さを噛みしめてきた一人なんですよ」
「ドクロさん」
「あなたなら、わかりますよね?」
「あなたは今、なにも知らなかったほうが幸せだった、という現実を感じているはずだ」
「強大な力をもった英雄と比べて、なんと自分の存在の小さいこと」
「無力さに歯噛みしながら、けれど、どうすることもできない・・・」
ゼータさんは、ゆっくりと目を閉じ
「彼らから声をかけられた時、私は躊躇せず『機械』を受け入れた」
「・・・おかげで私は、私が望む最高の力を手に入れることができた」
ゼータさんは目を見開き
「そして・・・長年、私のプライドをふみつけた あなたがたに復讐するために」
「ここの門番をねがいでたのです」
信じられなかった
ボクチンは皆の顔をみまわした
だれもが言葉をなくしていた
なかでも
アヤさんは、見ていられないほどの変わりようだった
顔色は、真っ青になり、瞳には光もなく
まるで、暗黒の深い穴があいているようであった
かすかに・・・ふるえている
だがボクチンだけは、だまっているわけにはいかない
「ゼータさん!!アナは・・・アナになにかしたのか!!」
「アナはどこにいる!!」
「応援をつれてくるといったのもウソなのか!!」
ゼータさんはボクチンとは、ま逆で
いたって冷静にこたえる
「アナさんもまた、力なきものの一人」
「安心してください 彼女はアーカムの護衛つきで安静にねむっています」
「だが・・・」
ゼータさんの瞳に凶暴な光が差し込む
「だが、あなたたちは違う」
「私達のジャマをしようという者たちは、たたきつぶします・・・」
「私の・・・」
「私のスタンドで!!」
「行きますよ、みなさん」
「私が得た力」
「私のスタンド」
「レイジ!アゲインスト ザ マシーン!!」
つづく