不思議なもので、
自分が異常な空間の中にいて、異常な生活を強いられているとしても、
異常な親に苦しめられているとしても、
いつの間にか徐々にその感覚はマヒしていき、
きづいた時には、第三者にそれを指摘されると、
今まで自分も「悪」だと思っていたはずの親に対して、急に同情心や庇いたくなる精神が芽生えることがあります。
それは自分自身の良心からくるものなのか、
そんなどうしようもない親のために奮闘している哀れな自分を認めたくないのか、理由は分かりませんが、
自分を拉致や監禁していた犯罪者と生活を共にしていた被害者が、
たまに犯罪者から優しい言葉をかけられただけで、異常に嬉しい気持ちになったり、
むしろこの人は本当はいい人なのでは、なんて思い込んでしまう現象と一緒かもしれません。
Bさんからの借金は、300万円。平成21年秋頃の出来事でした。
当初Bさんは、私に同情し、「この金が最悪帰ってこなくても構わない」と言っていました。
しかしそれにつけこんだ祖母は、私に、
「あの人はあんたに入れ込んでいるから、もっと引っ張れる(お金を)。頼んでみろ」
と、再三Bさんに電話をかけることを強要してきました。
私はいやいやながらも、現状から少しでも楽になりたかったので、
Bさんに更なる借金をお願いする電話をはじめました。
当初はBさんから、
「親のために健気に頑張るお前はえらいし応援したいが、そのままだとお前の人生がダメになるぞ。もうあれ(300万円)を機に協力はやめて、今後は一切家のためにお金の援助はするな。目を覚ませ。」
とメールがありました。
ただ私は、いくら貸してくれたとはいえ、
その代償に私との関係を迫ったBさんの正論ぶりに腹が立ち、
「お言葉はありがたいですが、私は家族を見捨てるわけにはいきません。私や家族にしかわからない事情があるのです。」と返信しました。
そんなやり取りが2・3回続いたある日、ついにBさんは言いました。
「それはたいそうご立派な信念ですね。分かりました。それではお金は期日通りきっちり返してくださいね。」と。
私はその言い草に腹こそ立ちましたが、お金はきちんと祖母が返済してくれるものと安心し、
その時はまだ事の重大さに気が付いていませんでした。
しかしその後、結果的には、
平成22年の初夏頃に祖母は、100万円を返済したきり、残りの200万円を返済してくれることはありませんでした。
その結果、私は現状から逃れたくて、
上京し、新卒で入社した会社で、入社半年後から給与差し押さえをされることになりました。
忘れもしない、弁護士事務所からの再三の督促状、差し押さえを執行すると書かれ、
何度も祖母や母に救済を求めましたが、
祖母は「何とかしてやりたいが、今の私ではどうすることもできない」と言い逃れ、
母は「ちゃんとこちらで対処するから安心して」とその場をうまく言い逃れ、結局1銭も払うことなく、見事に残金200万丸丸が、それから約2年に渡り私の会社の給与から差し押さえられることになりました。
会社の人事から呼び出しをされ、事情を聞かれたときに、
私は恥を捨てて事情を全て話しました。
当時の人事部長さんは私の話に同情してくれましたが、
「応援するから負けないように」と涙目で話してくれたことを今でも覚えています。
手取り18万円程度の給与から、毎月6万5千円が差し押さえとしてひかれ、
手元に残るは12万円ほど。そこから家賃や生活費、光熱費などを払わなければなりません。
もちろん、憧れていた東京での新生活は、悲惨なものとなっていきました。
時には、100円のあんまんが食べたくて、財布に残った10円をかき集め、
90円しかなく諦めるという何ともみじめな夜を過ごしたこともありました。
うらんでもうらみきれない、誰を憎んだらいいのかもわからない、
何も楽しみがない、そんな生活の幕開けでした。