大事な遊び場 | 池田独の独り語り

池田独の独り語り

池田独のひとりごとと、小説のブログです。

漫画、小説、ぼそぼそマイペースに呟きます。

時々、文章なんかも書きます。しばしのお付き合いを・・・

思い出深い場所  ブログネタ:思い出深い場所  参加中
本文はここから




生まれた時から、ほぼ同じ場所に住んでいる。

あまり環境の変化についていけない方で、枕が変わると眠れないほうだ。だからというわけではないが、実家が引っ越していってしまった今でも、生まれたころ住んでいた辺りに住んでいる。

勝手知ったる、という言葉があるけれど、もうあまり友人たちも残ってはいないし、随分と様変わりしてしまっているご近所ではあるが、それでもうちの子供たちにとっては勝手知ったる場所であるらしい。

昨日、ブログに書いたのだが、私の実家はかつて畑をやっていた。

アスパラガスとニラを作っていたのだが、この畑だった場所、今は原野となっているのだ。

しかも山の斜面にあるので、その場所まで入って行くのは難しい。

二年ほど前のことだ。

その畑のあった場所の側に、配達に仕事で行くことになった。

山の麓なので結構な上り坂を車で上り、目的地であるリハビリ施設に荷物を下ろして、私は駐車場に戻った。

駐車場の前に、りんご園がある。このりんご園は昔からあって、うちの畑はその向こうがわ。つまりりんご園とは隣り合わせだったのだ。

畑は、ニラとアスパラガスだけではなかった。

祖父は木が好きで、畑の周辺にもイチイ(こちらではオンコと呼ぶ)を沢山植えていた。他にもクルミの木が三本植えてあり、秋の今頃には友達とクルミ拾いに来たものだった。

畑の上の方に、四本、檜が植えられてある。これは私が生まれたときに祖父が「嫁に行く時タンスを作る」と植えたものだそうだ。

この施設の駐車場から、その畑が眺められるのに気がついた。いや、正確には元畑で、今はただ木々が生い茂っているだけなのだが。

すっかり大きく育ってしまったオンコ、その間をつなぐように這う山葡萄の蔓、それらに粉砂糖を振ったように雪がそっと積もっている。

あのへんに、確か納屋があったはずだ。あそこに大きな木が三本並んでいるから、あれがクルミの木。じゃあその上に、ほおずきが植えてあったところ。あの辺りはエゾエンゴサクが咲いていて、よくその花を摘んだ・・・

アスパラの穂に蝶が作った蛹を眺めたこと、自家用に植えてあった三つ葉の香り、掘り起こす土の香り、何処かで何時も鳴いていた山鳩の声、腰の曲がった祖母、完熟のほおずきの美味しかったこと・・・
畑の横っちょで、毛布を敷いて昼寝をしていたあの頃のことが次々と蘇ってくる。

不思議と当時の家のことはあまり覚えていないのだが、畑であった事はよく覚えている、とその時感じた。

きっと雪がない季節は、もっと緑が茂って、こんなに畑の様子は伺えないのだろう。

しばらく私は駐車場からその景色を眺めた。忘れられないし、忘れたいとも思わない。

私の子供たちは毎日の様に公園にかよったが、私にとっては畑こそが毎日通った遊び場だった。

楽しかった遊び場は、いつまでも私の中にあって、消えてなくなることはないのだ。

またそのうちに行こう、と思いながら全く行っていないのだが、そろそろ紅葉見物を兼ねてのんびり行ってみようかとは思っているのだ。

もう遠くから眺めるだけだけれども、今はもう勝手知ったるところではなくなってしまったけれど、それでも私の大切な場所だ。

どんなに変わっても。私の中では変わることがないのだ。大切な遊び場だから。