畑のあるところ | 池田独の独り語り

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まだ二十歳の頃のこと。

学生ではあったけど、勤労学生というやつだった私は、お盆が開けた頃に少し遅れてお盆休みをとった。

父の車を借りて、富良野と帯広まで二泊三日のゆっくり旅。あの頃は遠くへ行くような気持ちでいたけど、今なら富良野くらい日帰りで行くので、やはり要領を得ていなかったのだろう。

初めて行く富良野は、もうすでにハイシーズンを終えていたからか、まだ今ほど観光地化していなかったからなのか、案外静かだった。行く途中の、空知川の河原で、沢山のバッタが飛ぶ姿を見たり、道にまよったりしながら、やっとこたどり着いたのが、中富良野のラベンダー園だった。

ラベンダーの丘は、夕暮れの風の中にあった。

もう既に枯れ花が多い季節だったが、それでもあの優しい香りは一面に広がっていて、丘に登って見下ろしてみれば、十勝岳が白く広がり、その手前には継ぎ接ぎしたような畑が続いていた。その中をたった一両しかない電車が、かたたーんかたたーんと、走っていくのが見えて、静かな風景の中にただ一つ、動いているもののようにも見えた。

その日は民宿に一泊してみたのだが、民宿に泊まる、というのも初めての経験だった。

中学時代からの友人とふたり旅だったが、その友人も民宿に泊まるのは初めてで、夜には宿泊していた人たちとゲームで盛り上がり、楽しいひとときを過ごした。

富良野は冬寒く、夏は暑いという地形である。

ドラマの影響などではなく、その季節のはっきりした所がいいな、と私は思った。

子供の頃、まだ実家の祖父母が畑をやっていた、というのもあり、畑を眺めると気持ちが落ち着くという私なので、その広がる畑も気に入った。農家のヘルパーとして、ここで将来働けないだろうか、と少し考えた。

毎日、何百人もの客が私のレジを利用する。大手スーパーのレジ係だった私は、その虚しさにうんざりしていた。接客、といっておきながらお客さんと会話すらしないのだ。これでは機械と同じではないか、とさえ若い私は思っていた。そんな毎日だったから、なんとなく何処かへ飛び出したくなっただけかもしれないのだが、私はなんとか卒業後、富良野に住めないかと考えていた。

その思いが現実になることはなかったが、今は地元札幌での暮らしには満足している。それなりに田舎、それなりに都会、ちょっと車をとばせばアウトドアも楽しめて、それ程不便も感じない。

もし今後、自分の意志で何処かへ移り住むというのなら。
実は候補がある。
それは私の母が育った、札幌近くの当別町、という所。
仕事がなさそうなのが悩みどころだが、人があまり多くなくてごちゃごちゃしていない所が気に入っている。
なにより空が広いし、螢の飛ぶ川もある。畑もそうだが、米どころなので田んぼもたくさんある。産直の野菜にも恵まれている。
もし収入や病院などの問題さえなければ、古民家で構わないので移り住みたいと密かに思っている。
もし孫ができたら、ここなら夏休みの遊び場には不自由しないだろうし、なにより私があちこち散歩して歩くのにちょうどいい。

問題は図書館や本屋が充実していないところだが、いまはネットがあるので、それ程困ることもないだろう。

母に言ったら「いいんじゃない、それ」と案外乗り気だった。

この季節はもう紅葉もいいだろうなあ、などと考えながらも、多分サッポロに住み続けるんだろうなあと、すこし寂しい気持ちになっている。
結局、田園風景のある所に住みたいんだろうな。
やはり小さな頃に過ごした環境へと帰りたいと、無意識に思っているのかも知れない。
子供の頃、実家の祖父母と毎日畑に行っていたあの頃。
あそこが私の、一番リラックス出来る景色なのだろう。