こんにちは

 

最近は少なくなりましたが、戦前の新聞には怪異に関する記事がたくさんありました。民俗学者の湯本豪一氏が編集した『怪異妖怪記事資料集成』四巻(国書刊行会)が決定版とでもいうべき大著なので、そこから拾ったものをご紹介します。なお、読みやすくするため、意訳したものになります。

 

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飼い猫の嫉妬

  大正9年8月1日 / 北國新聞

 

 貞享2年の頃、市内片町で質屋を営んでいた斎藤喜兵衛というものあり。両親は亡くなっており、定まる妻もなく親類からもらった一匹の牝猫をかわいがり、夜は懐中で寝かせ食も一緒にしていた。いつまでも独身というわけにもいかない喜兵衛は、仲人を介し十人並みの娘を貰った。すると猫はその日から嫁の顔を見ると恐ろしい形相で鳴く。嫁はいろいろ食べ物を与えたが、食わずにかえってにらみ返してくる。ある夜、嫁がうたたねをしていると、猫がとびかかって喉笛に噛みついた。幸いにもうつむき加減であったため、軽い噛み傷で済んだ。喜兵衛もさすがに驚き、大乗寺山に捨てに行ったが、朝には戻ってくる。もらってくれる人もおらず、相変わらず嫁に噛みつくので、嫁はひまをくれという始末、喜兵衛はしかたなくかわいそうだが、猫を絞め殺し犀川に流した。安心して夫婦むつまじく暮らし、女房は身ごもった。おさんは難産であったが、ようやく生まれた子は男の子だったが、全身に毛が生え、鳴き声が牝猫そっくりだった。夫婦は悲嘆したが、その子はいくばくもなく死んだ。寺町の法光寺に弔い、ねんごろな読経をしてもらうと怪異はやんだ。

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▲猫  ※「いらすとや」よりお借りしました

 

 いわゆる「化け猫」をはじめ、怪異譚に猫はつきものです。この記事の怪異は生まれてくる子どもに出るわけです。

 金沢は空襲がなかったため、古い街が残りました。怪談も多いです。法船寺の「怪鼠之伝話」という話があります。法船寺はネズミが什器をかじるので困っていました。住職は飼猫に役に立ってないなと嘆いたところ、猫はいずこかに去っていきました。ある夜、住職の夢に猫が現われ、寺にいるネズミは力が強く、自分では退治できないから能登の猫の中でも強いものに助力を頼むことにした旨をつげ、連れていく猫をもてなすように頼むのでした。二日後、猫はもう1匹の猫を連れて帰ってきたのです。住職は魚を与えたところ、二匹は天井裏へ上がっていき、大きく争う音がするようになります。しばらくして天井が破れ、大きなネズミが落ちてきたので、人々は打ち殺しました。猫たちは勝ったのですが、老ネズミの毒気にあたり、死んでいました。住職らは塚を作って供養したといいます。今も義猫塚として残っています。

 猫は人間のまじかにいて、時には愛らしく、時にはだまくらかす、賢い動物です。新聞記事も多いので、良い話があれば、どんどん紹介していきたいと存じます。

 

▲破線で囲んだところが片町です   ※Wikipediaよりお借りしました

 

注1.   北國新聞

石川県金沢市に本社を置く地方紙です。1893年創刊、創設者は赤羽萬次郎でした。1939年から1942年にかけていくつかの新聞社を合併、北陸を代表する新聞となりました。   

注2.金沢市片町  

犀川大橋から香林坊に至る金沢を代表する繁華街。片側に掛けづくりの街なみがあるので、この名前になりました。(石川県観光サイトより)
注2.    十人並み  

容貌や才能、技量などが普通であること、またはその様を指します。現在は容貌について使用することは不適切です。
注3.    大乗寺山  

片町から南に行ったところにある丘陵地。大乗寺は曹洞宗のお寺です。丘陵公園がありますが、直近では熊によるケガ人が出ているそうです。
注4.    犀川  

金沢市内を流れ、日本海に注ぐ川です。同じく市内を流れる浅野川を女川と称するのに対し、男川と呼ばれています。
注5.    法光寺  

金沢市寺町5丁目にある日蓮宗の寺院。高岡から遷ってきたと言われています。片町からは北東になります。

 

●参考文献

湯本豪一編

『明治期怪異妖怪記事資料集成』2009年・国書刊行会

『大正期怪異妖怪記事資料集成』2014年・国書刊行会