こんにちは
最近は少なくなりましたが、戦前の新聞には怪異に関する記事がたくさんありました。民俗学者の湯本豪一氏が編集した『怪異妖怪記事資料集成』四巻(国書刊行会)が決定版とでもいうべき大著なので、そこから拾ったものをご紹介します。なお、読みやすくするため、意訳したものになります。
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山奥にひそむ色々な不思議 山田貞三
昭和3年2月26日 / 福島民報
今年の冬私は只一人山荘で越年した。その時のこと、山荘には色々な小鳥を飼育していました。ある夜小鳥の寝箱の中で変に悲しい啼き方をするので見ると皆籠の隅にうずくまっていたのです。平常なら騒ぐはずです。不思議なので電灯を消して、ステッキを持って部屋の隅に居ました。間もなく籠の中でバタバタするので電灯を点けてみると、小鳥は四羽とも殺されている。部屋中くまなく調べても穴もなく、他より侵入のできないところなのでわからない。その後も三羽死んだのも、今もってわかりません。
私は村の用事で出てスキーで向かっていると誰やら後ろからついてくる。十二時一時の雪の高原ですから、イタズラについてくる人はなし、雪明りで進むようなところです。林の中に入ると足音は私の先の方でするから不思議で、こんなことが毎夜続きました。
山荘で寝ていると女の児の声で「今晩は今晩は」という。出ても誰もいない。足跡すらない。すると洗面所で誰か水を出している。一間半も離れていない鼻先でやられたのです。思わず火箸を手にしていると、隣室のドアをガラガラと開ける音がしたので火を消してスキーを履いて村へ逃げました。その晩は友人の家に厄介になったのです。
後ろ前で足音を聞かせるのは白狐であるらしいですが、様々な音がなんであるかわかりません。人間は自然を征服するために神秘を以ってします。
※福島県耶麻郡奥川村より北二十町の山間へき地
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▲西会津町から望む飯豊山系 西会津町さんの作品を httpswww.town.nishaizu.Fukushima.jpsoseki211089.html から UploadWizard
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怪談としては大正末から昭和の初めの話と思われますが、山田貞三氏の詳細がわからないため、特定ができませんでした。この奥川は飯豊山を望み、喜多方と新潟の津川(最近は阿賀で有名です)を結ぶ中間地で交易路だったそうです。修験など信仰も古くから盛んな地でした。町の伝承によると花立峠の辺りに狐が出て人を化かす話もあるので、記事に出てくる白狐と関係あるかもしれません。
奥川から北二十町(約2キロ)というと山深いところです。雪の中、夜中に2キロをスキーで行き来するのは大変なことだったでしょう。それでも怪異を恐れた彼は逃げたわけです。想像以上の恐怖だったかもしれません。いわゆるポルターガイスト現象ですが、古今東西起きています。この記事を読んで思い出したのは、先日鬼籍に入られた佐藤愛子さんの北海道の別荘の話でした。詳細はさけますが、土地の因縁によるものとされました。蛇口から水が出る、シャワーの音がするといった話は定番です。今、山荘がどうなっているのか、その場所で何か起きていないか、気になるところです。
▲きつね 「いらすとや」さんからお借りしました
注1.福島民報
1892年(明治25)自由民権運動指導者河野広中が率いる福島自由党が、党機関紙の発行を企図し創刊号として発行。1941年(昭和16) 新聞統制により、一県一紙体制になり、福島県唯一の新聞となります。その後政党機関紙からの脱却を宣言し、現在に至ります。
注2.山田貞三
詳細不明。調査中です。
注3.村 福島県耶麻郡奥川村
かつて福島県耶麻郡にあった村。現在は西会津町奥川各大字にあたります。県の西に位置し、新潟との県境に接しており山深いところです。
注4.一間半
2.73mになります。1間が182cmです。
注5.火箸
火鉢、囲炉裏などで、燃えている炭を挟んだり移動させたりするために使われる金属製の細長い箸です。
注6.白狐
全国に伝説はありますが、伏見稲荷大社のお使いとして有名です。福島では会津若松城(東黒川城)築城の際、苦心していた葦名の殿様の夢に白狐が現われ、雪の上に残した足跡で城づくりを助けたという言い伝えがあります。今でも会津若松城内には鶴ヶ城稲荷神社が鎮座しています。
注7.二十町
約2.2kmになります。1町は約109 m、1 kmは約9.17町で換算します。
注8.へき地
僻地とも書きます。都会から遠く離れた土地。へんぴな土地を指します。
●参考文献
・湯本豪一編
『昭和期怪異妖怪記事資料集成』(上・中・下)
2016年~2017年・国書刊行会
[編者紹介]
1950年東京都生まれ。法政大学大学院修士課程修了。元川崎市市民ミュージアム学芸室長。
拝

