こんにちは

 

最近は少なくなりましたが、戦前の新聞には怪異に関する記事がたくさんありました。民俗学者の湯本豪一氏が編集した『怪異妖怪記事資料集成』四巻(国書刊行会)が決定版とでもいうべき大著なので、そこから拾ったものをご紹介します。なお、読みやすくするため、意訳したものになります。

 

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アパートメントの幽霊騒動

  大正9年8月24日夕刊 / ユタ日報

 

 テキサス州ハウストン市のさるアパ-トメントでは、昨今ほとんど毎夜止宿者のベッドや部屋をたたく者がある。ところが誰が見ても人の姿はなく、しばらくすると人のしゃべり声や身の毛もよだつ唸り声が聞こえるので、皆が幽霊だと噂しあい、話は広がった。そこで五名の探検隊が七日七晩警戒しているが、いまだに正体はつかめない。

 

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 欧米の怪談は圧倒的にポルターガイストが多い印象です。また、出る幽霊の名前やプロフィールが判明していることも目立ちます。匂いの幽霊もいて、米国フロリダ州のカッサダカホテルにはアーサーというアイルランドの歌手が出て、ジンやたばこの匂い、体臭がするといいます。
 ポルターガイストはドイツ語の“騒がしい”と“幽霊”を合わせた言葉だそうです。古くは1661年、イギリスのテッドワース(イングランド南部)の地方判事モンペッソンの話が伝わっています。彼は太鼓を鳴らして門づけをしていた男を捕らえ、太鼓を押収しました。男は脱走しましたが、それ以来モンペッソン家では大きな音が鳴るようになり、あたかも太鼓を叩いているかのような状態だったそうです。現象は2年も続きましたが、実は男が魔術で起こしていたことがわかり、遠くへ流刑するとポルターガイストは止んだということです。1848年には米国ニューヨーク州で起きたのが「ハイズヴィル事件」でした。室内からノック音がするもので、姉妹が幽霊とノック音の数で交信するという現象でした。やがて「交霊会」として巡業するようになりましたが、イカサマであることがわかり、スピリチュアルのブームも落ちついたそうです。
 日本でも音は様々あります。天井裏から大きな音がする、石が降る、小豆を洗う音がするなど、ただし、もののけの仕業が多いですね。1920年、夕張の小学校の宿直室で音の数で交信したという話があるとかないとか。
欧米では幽霊現象とポルターガイスト現象は別個にとらえる考え方もあるそうです。

 

▲1910年ごろのヒューストン市街  ※Wikipediaよりお借りしました

 
注1.    
ユタ日報  明治末期に、信州からアメリカに移住した寺沢 畔夫(うねお)國子夫妻が、ユタ州ソルトレークシティで発刊した日本語新聞です。
注2. 
ハウストン市  ヒューストン市。
 

●参考文献 

湯本豪一編

『明治期怪異妖怪記事資料集成』2009年・国書刊行会

『大正期怪異妖怪記事資料集成』2014年・国書刊行会

 

ロバート・グレンビル著 / 片山美佳子訳

『絶対に出る世界の幽霊屋敷』2018年・日経ナショナルジオグラフィック社