こんにちは

 

最近は少なくなりましたが、戦前の新聞には怪異に関する記事がたくさんありました。民俗学者の湯本豪一氏が編集した『怪異妖怪記事資料集成』四巻(国書刊行会)が決定版とでもいうべき大著なので、そこから拾ったものをご紹介します。なお、読みやすくするため、意訳したものになります。

 

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本家の二階  ~ 怪談涼み床

明治45年7月18日 / 帝国新聞

 旅役者の経験談である。明石の芝居小屋に出ていたが、宿がないため小屋の二階に泊まることになった。暑い自分で蚊帳をつって寝teいたところ、1時間ほどたった時、横で寝ている相棒がうなされている。行燈を消して寝たはずなのに、ボッと明るい。どうやら蚊帳の外に人が立っている。声をかけたが返事はない。出てみると五十歳ぐらいの爺がうらめしそうな顔をしている。口からは青白い炎が出ている。わっと叫んで相棒をたたき起こし、浜辺に逃げた。相棒に見たかとたずねると、痩せた爺が胸の上にまたがってきたので呻いていたという。

 翌朝、小屋の者に聞いたところ、表方のじいさんが博打に負けて袋叩きになり、くやしくて首を吊ったのがあの部屋だということだった。その日は遠いことを我慢して町の宿に泊まった。
 

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明石は城下町で、港湾整備をすすめ、鯛やタコなどが名産物としてあがり、街道筋の本陣などもつくられ発展しました。港湾労働者は多くいたはずで、その人たちの娯楽のために芝居小屋などあったと思われます。話から逃げたら浜辺があるわけで、街はずれでもあることがわかります。調べたところ、名前の出てくる劇場は大正以降なので、名の知れぬ小さな小屋で起きた怪だったのかもしれません。
 
▲明石城跡  2つの櫓(巽櫓・坤櫓)は国の重要文化財に指定されています。
公式ホームページよりお借りしました 転用はご遠慮ください

 

注1. 帝国新聞

1910年(明治43年)に創刊し、1912年(明治45年・大正元年)に大阪日日新聞となります。2023年休刊になっています。
注2.    明石  

兵庫県にある町。阪神と播磨の中間に位置し、神戸市に隣接しています。東経135度に位置し「日本標準時子午線」が通ります。また、世界一長い吊橋「明石海峡大橋」の全景が望める海峡交流都市でもあります。気候風土も瀬戸内の温暖な環境に恵まれ、明石ダコ、明石鯛、明石のり、あなご、と海の幸が豊富です。江戸時代には城下町として発展し、町人の娯楽としての芝居興行も行われたことでしょう。記事の前年である明治 44(1911)年には夏目漱石が 中崎公会堂(国の有形登録文化財―建築物)の杮落し(こけらおとし)で講演しています。
注3.    蚊帳  

蚊に刺されることを防ぐための防虫ネット。昭和の頃は寝具の上に吊って就寝しました。

 

◆注はどこ山が調べたものです

 

●参考 明石城公式ウェブサイト

 

●参考文献 湯本豪一編『明治期怪異妖怪記事資料集成』2009年・国書刊行会