こんにちは

 

最近は少なくなりましたが、戦前の新聞には怪異に関する記事がたくさんありました。民俗学者の湯本豪一氏が編集した『怪異妖怪記事資料集成』四巻(国書刊行会)が決定版とでもいうべき大著なので、そこから拾ったものをご紹介します。なお、読みやすくするため、意訳したものになります。

 

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吉原で怪談会 ~最も振るったのは沼田一雅氏の幽霊実見談

明治42年8月26日 / 国民新聞

 

仲の町水道尻の引手茶屋「兵庫屋」の二階奥座敷に集いし人々による怪談会が開かれり。
メンバーは岩村透男爵、鈴木鼓村、泉鏡花、小山内薫、高崎春月、沼田一雅、沼田夫人、長谷川しぐれ、岡田八千代、市川団子、神田の金さん(会主) ほか5~6人
 定刻になり、灯りを消す。ロウソク2~3本立てる。一人ずつ語り始める。
「五花街 寂として 死したるごとし」
 

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標題からは沼田一雅氏の実体験を語ったものがうけたようですが、内容は書かれていません。吉原に著名人が集まって怪談会を行ったというだけですが、メンバーからいろいろと推理できるところが興味深いです。

▲『吉原再見』よりお借りしました

 

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注1.    吉原仲の町水道尻  遊郭のセンターを縦貫しているのが仲の町通り。その奥にあったのが水道尻(大門から入り、逆サイド)です。
注2.    引手茶屋  遊客を遊女屋に案内する茶屋。遊郭内にあって、客を遊女屋へ送り迎えしたり、酒宴をさせたりする家。 一流の遊女屋は、直接店にあげず、必ずこの茶屋を通す風習でした。
注3.    岩村透(1870-1917)  美術批評家。東京美術学校教授。欧米を見聞、ロダンと会見した。男爵は父親で、ここでは男爵家の子息といった意味か。
注4.    鈴木鼓村(1875‐1931)  箏曲京極流の始祖・作曲家・画家。日本音楽史の研究家でもありました。文豪怪談にも逸話が残ります。
注5.    高崎春月  不詳。調査中です。  
注6.    沼田一雅(1873-1954)  陶磁器彫刻家・工芸家。東京美術学校教授。
注7.    長谷川しぐれ(1879-1941)  長谷川時雨は劇作家、小説家。『女人芸術』発刊で知られています。
注8.    岡田八千代(1883-1962) 小説家、劇作家、劇評家。小山内薫の実妹。長谷川時雨と親交がありました。
注9.    市川団子(1888-1963) 二代目猿之助、初代市川猿翁。
注10.    五花街 通例では京都の五花街をさします。ここでは、吉原にあった京町・江戸町・仲の町・揚屋町・角町の五つの街を指すと考えられます。。

 

◆注はどこ山が調べたものです

 

●参考文献 湯本豪一編『明治期怪異妖怪記事資料集成』2009年・国書刊行会

●参考サイト 『吉原再見』