こんにちは

 

最近は少なくなりましたが、戦前の新聞には怪異に関する記事がたくさんありました。民俗学者の湯本豪一氏が編集した『怪異妖怪記事資料集成』四巻(国書刊行会)が決定版とでもいうべき大著なので、そこから拾ったものをご紹介します。なお、読みやすくするため、意訳したものになります。

 

杜翁の幽霊   明治43年12月28日/沖縄毎日新聞 

 

 杜翁の墓は埋葬が終わってから毎夜番人が立つようになったのだが、不思議なことが起きるそうだ。いずこからか、急に全身黒服で長いひげを生やした老翁が墓の上に現れる。番人が小さくなってぶるぶる震えていると、老翁は墓に身体をおしつけて祈っている。それが終わると番人にむかって恐いことはないよと言ってスッといなくなった。

 翌々日現れた時は、番人が用意してきた銃を撃ったが当たらず、翁はヒヒと笑って消えた。近隣の住民は、トルストイは死んでいない、埋葬された人は別の人だと思っているので、そのようなうわさがあるのだろう。

 

トルストイ  Wikipediaからお借りしました

 

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注1.杜翁  トルストイのこと。ロシアの小説家・思想家(1828~1910年)。 小説は、19世紀後半のロシア社会を描き、リアリズム文学の最高峰とされる。トルストイは11月20日に外遊中に死去、明治43年は1910年なので、葬儀直後の話であり、記事内容は新しい情報と思われる。

注2. トルストイの墓  彼の愛したヤースナヤ・ポリャーナの地にある。貴族の子息であり、広大な領地を相続しながらも、民衆の立場に立った。彼の葬儀の列は1万人を超えたといわれる。

 

すでにベストセラー作家だったトルストイの死は世界的な話題となりました。ロシア政府も注視し、フランスからは亡くなった駅舎に取材団が来るほどだったと言います。人気の高い人物は、その死を受け入れない話が古今東西を問わず多いので、結びがこのような表現になったかもしれません。

 

◆注はどこ山が調べたものです

 

●参考文献 湯本豪一編『明治期怪異妖怪記事資料集成』2009年・国書刊行会