歴史のことば劇場86

 トランプ関税で世界が揺れていますが、
一般的に、ある国が高関税や貿易障壁を設け、自国通貨を引き下げる、あるいは資金移動を制限すれば、経常赤字は減り、政府の歳入は増え、自国産業は保護されます。
しかし、この措置を続ければ、金融市場は大混乱し、インフレや失業率の上昇に悩まされる危険がある。

 1930年代、大不況からの脱出を各国がバラバラに行うと、世界の貿易額は減少し、ブロック経済圏に限定され、世界戦争を誘発した。
この反省の上に、ブレトン=ウッズ体制などの自由国際貿易の再建は図られますが、
通常、自由貿易論では、
富や資源は有限とする「ゼロ・サム・ゲーム」の考え方は否定されます。
その反対に「プラス・サム・ゲーム」、一方が得をすれば他が必ず損をする訳ではない、むしろ参加者全員に利益をもたらすと考えます。また富と軍事力の相関関係を疑い、共通のルールの下、競争により利益を追求すれば、皆が長期的には豊かになるという、プラス・サム的な「共通善」を求めます。

 沖縄返還を「すぐれた外交の見本」と称賛したキッシンジャーは、同時期の日米繊維摩擦に触れながら「問題の根はもっと深いところにあった」として次のように述べました。

日米や西欧は同盟関係にあるが、経済面では互いに競争する関係にある。民主主義制度を持ち、決定を下す政治権力も、経済力も、分散されている。
政治的には同盟、貿易上は競合するライバルという諸国が、互いの関係を緊張させず、独自の経済政策を進めていくには、どうすればよいのか―
この問題を解決できた政府はまだどこにもない。互いの経済目標を調整し、適切な依存関係が必要なことをなかなか認めない。
 とくに米国が「保護主義の圧力に弱いことが…制度の重大な弱点である…
保護主義は経済的に弱体な国が頼る手段であり、もっと賢明な国家政策なら、労働力と資源の流動性の向上をはかる…衰退する工業部門から転換し、より生産性の高い部門を拡張する…
保護主義は…工業民主主義諸国同盟のリーダーを目指す国にふさわしい態度ではない…
今こそ政治的識見を発揮し、経済分野における基本的な利益の共通性を改めて強調すべきだ。この共通利益こそ、我々の安全が明らかに外部からの脅威に直面するなかで必ずやものをいう…
さもなければ、いよいよ激烈な経済的衝突が起こり、我々の自由を支えている、利益と希望の統一そのものが、崩れ去りかねない危険がある。
我々は、これからこの挑戦に立ち向かわなければならない」と。

 要するに、沖縄返還や繊維交渉は、
外交や安全保障のみならず保護主義や自国優先主義を回避して「どの政府もまだ解決できていない問題」を実質的に妥結に向かわせた。
また冷戦後の「日米新時代」をもたらし「我々の自由を支える共通利益」を発見させた。
この国際貿易と安全保障、競合と同盟とを両立・並存させるプラス・サム的な「共通善」をいかに見出すのか、
それこそが問題の核心であり、この間の事情は、戦後80年の今も変わっておらず、
それゆえ、権威主義や全体主義の国々よりもこれに対抗する自由主義陣営において、「共通善」を見出し、
妥結を見る可能性が高いのではないでしょうか。