ASKA「誰の空」レビュー | ただひたすらCHAGE and ASKA

ASKA「誰の空」レビュー

私がASKAのオリジナルアルバム『Wonderful world』の中で、シングルで発表してほしかった曲が「誰の空」だ。

なぜなら、ASKAのこれからの音楽活動への決意とASKAの音楽そのものを歌にしているから。
メロディーや詞にほとばしる情熱を感じる名曲でもある。

ASKAは、この曲について、インタビューで次のように語っている。

『“なんでも歌にしてやろうじゃないか”という気持ちを持っているんですよ。その感情を歌にしたということです。』
 【ASKA、聴き手に希望と救済をもたらす『Wonderful world』。楽曲に込めた想いを語る】(DI:GA ONLINE) 

 

 

『自分は歌うことで生きた証を残そう。そういうことです。』
 【インタビュー】ASKAが音楽で表現した"Wonderful world"とは(BARKS)

 

 


そんなASKAの想いが込められているからこそ、強く共感してしまう。
このアルバムでは「PRIDE」や「太陽と埃の中で」が注目されがちだが、この曲は、それに匹敵するほどのパワーを持っていると言っても過言ではない。

私は、19歳の頃から趣味で小説を創作していて、常日頃から日常生活で起きる些細な出来事ですら、これは小説にならないかな、と考えてしまう癖がついている。
刺激的な出来事に遭遇したら、大抵は、小説という形にして昇華しようとしている。
きっとこれは、創作者共通の習性なのではないかと思う。

以前、清木場俊介がASKAの音楽について「聴いていると、その人の人生が見えてくる」と語っていた。まさに、ASKAの音楽は、人生そのものなのだ。

ASKAは、自らを歌いつづけてきた。しかも、歳を経るごとに、架空の物語よりも自分自身の体験に基づいた内容が色濃くなってきている。
「しゃぼん」「Too many people」「Fellows」「Black&White」などは、ASKAでしか作れない楽曲だ。

トップアーティストとして人気を博し、多彩な人脈も持つASKAは、一般人には決してできない経験と情報網を持っている。
さらに、1人の生身の人間として、人並み外れた感性と才能を持ち合わせる。

だからこそ、ASKAが作り上げる音楽は、この曲の歌詞にあるように「生きることのすべて」が詰まっているのだ。

この楽曲は、警鐘を鳴らすような情熱的なイントロに続いて、主人公が目を閉じる場面から始まる。
情報過多の時代になり、目に入ってくるものは、立ち止まって分析したり、自ら調べ直してその信憑性を測らねばならなくなった。

特に大手メディアから流れてくる情報は、利権にまみれていて、国民1人1人に寄り添わないもので溢れかえっている。日本では、世界の流れから取り残されたかのような古い情報がはびこっていることも多い。
ASKAが「can do now」を意識したという鮮やかな展開のサビに登場する「赤茶けた現実」は、そういった情報群を連想させる。

この楽曲におけるASKAの歌唱も独特だ。Aメロの途中から、とにかく語尾を伸ばさずに切って歌う。
それは、自らが信じて作り上げたものを世間に発表していく、という強い決意に感じられる。

2番に出てくる「強い痛み」。これは、一体どんな経験を指しているのだろう。まず最初に、2010年代半ばに起きた一連の騒動が思い浮かぶ。それ以外にもASKAは、様々な強烈な体験をしてきているから、それらすべてを指しているのかもしれない。

ASKAは、それらの強烈な体験をこれまで歌として昇華してきたのだ。そして、これからも、ASKAは、様々な体験すべてを歌にしてくれるだろう。
Cメロでは「青空を引き受けた」と歌い、たとえ周囲から反発をされようが、暗くどんよりとした空を青空に変えるため、警鐘を鳴らし続ける損な役回りを引き受ける決意をしたのだ。

きっとこの曲が発する決意は、年々大きな意味を持って、聴衆に響いてくるだろう。

「歌になりたい」の想いをさらに発展させた楽曲でもある。
MVを作って、世間に広めてほしいほどの神曲だ。