侯隆side
すば子ちゃんから聞いたひなちゃんの過去。
来る者拒まず、やった俺には想像出来るはずもなかった。
あの日言われた“あなたにはきっと私の気持ちは解らないから”は、俺の自意識過剰を見抜いた彼女ならではの言葉やった。
嫌われる覚悟で奪ったファーストキス。
未練無く次の恋に進むために、した。
代金を払い、釣りを受け取った俺を待ってたんは、想定内の出来事やった。
パッチーーーン
強烈なビンタ。キッと俺を睨んだその目は、うっすらと潤んでた。
ひ「最低ですね。もう店には来ないでください。私の前に二度と現れないでください。現れたら、私はあなたを殺します。大嫌いです」
そう言うと彼女はレジから離れた。
我に返ったゆきちゃんが声をかけてくれた。
ゆ「大胆行動に出ましたね(苦笑)」
侯「うん…。けど、これで未練無く次の恋愛に進めるわ。ありがとう」
ゆきちゃんは、何も言わずに見送ってくれた。
ひなside
ドアの開く音に顔を上げれば、あいつが帰る背中が見えた。
うちは重なった唇の感覚がなくなるまで消毒液を染み込ませたガーゼで自分の唇を拭ってた。
ゆ「ひなちゃん、大丈夫?」
来客がないのか、ゆきちゃんが休憩室に入って来た。
ひ「うちは…あの人はキライ。初めてを人前で、それも仕事中にするなんて」
ゆ「せやなぁ。でも、横山さん言ってたで?未練無く次の恋愛に進めるわ、って」
ひ「…次の恋愛…」
ひ(な、何考えてんの)
ひ「み、未練も何もあの日少し喋っただけやから」
強がりなんだろう事は解ってる。
人前で初めてのキスをされて、ドキッとしたなんか言えん。
ゆ「そうやねさ、仕事にもどろ」
ひ「……」
ゆきちゃんはうちの強がりに気付いてるんやろな…。
それから数日後。
ひ「風邪、治ったんかなぁ」
ゆ「え?」
うちのつぶやきに、データ入力してたゆきちゃんが、パソコンから顔を上げた。
小さいから、病院の処方箋を受け付けるのが主な仕事。
大手薬局さんみたいにお菓子とかを置くスペースなんかあらへんから、リピーターは決まって来る。
横山さんもあの日以来、来てへん。
ひ「…何でもないてさ、仕事しよ」
うちは調剤室に入る。
ひ「薬品があれば幸せや」
ゆ「……」
ゆきちゃんがメールしてたなんて、うちは知る由もなかった。
増してやそのメール相手も。
運命が変わり出す…。
続