「やっててよかった行動分析」第5弾です。

これまでのエントリはこちら。

やっててよかった行動分析 1
やっててよかった行動分析 2
やっててよかった行動分析 3
やっててよかった行動分析 4

僕が「行動分析学」というものにどうやって出会って、その後どのようにこれまで進んできたか?というお話を書いています。
「実際にやっててよかったー」ってエピソードまで、なかなかたどりつけませんでしたが、このエントリから徐々に出てきますので。

前回のエントリにも書いたように、この頃の僕は「飼い主さんを変えるってのは、どうやってやったらいいんだい?」っていう、大きな問題に直面していました。
「根気よくアドバイスを続ける」「繰り返し、何度でも言う」「ときにはおだて、ときには脅し、ときには褒めて、ときには叱る」とか、「やってみせ、言って聞かせてさせてみせ、褒めてやらねば人は動かじ」とか。
まあ色々と自分なりに考えて、どうにかこうにかやってたんです。
ところが、望月先生の講義を受講して、びびびーっときました。
どかーん!かもしれない。
どんがらがっしゃーんでもよろしい。
つまり、衝撃を受けたということが伝わればいいです。
その、衝撃を受けたのが、次の言葉。

 「行動分析学は『個人の行動を変えること』に関しては、
  もうある程度行きついちゃってるんだ。
  個人の行動を変えるんじゃなくて、
  その個人が生きる環境、社会を変える……。
  そうすれば『個人の行動』を変える必要なんて、
  なくなるかもしれない。
  我々は、そこに目を向けなければダメなんだ。
  それを科学的に、きちんとロジックを持って、やる。
  それが大事なんだよ」


とんでもねぇなと思いましたね。
同時に、そのときの自分が、なんてちっぽけというか、独りよがりというか、ダメダメだったかを思い知らされました。
「やっててよかった行動分析 3」でも書きましたけど、行動分析学をとにかく独学ででもいいからと学ぶようになって、まず体験したのが「おー、サクサク行動が変わるぜー」っていうもの。
それまでいまひとつ自信を持てずにやってたことが、「いやこれは、ちゃんと実験でもって確かめられてることだから」と、結構はっきりとというか、しっかりとできるようになったんですよね。

特に望月先生の講義を受けて、はっきりと一本のぶっとい芯みたいなのが通ったなと感じたことがあります。
それは「正の強化でやっていくんだ」という部分。

 「正の強化」

いわゆる「褒めること」という風に言われるものですね。
ただ、「正の強化」は、実は「褒めること」ではありません
ありませんが、手続き上は「褒める」ことで合ってることが多いです。
でも、専門家が「褒めること」って覚えてたらちょっとアレかもしれません。
ま、そこは置いといて。
望月先生は、とにかく何度も何度も「正の強化で」という風におっしゃっていました。
正の強化を手段から目的に」とも。

僕もこの「正の強化」でやっていくんだってことについては、結構強くコミットしてたつもりだったんですよ。
だったんですけど、やっぱりね、こう、ネットだったり、本だったり、人から聞いた話だったり、まあ誘惑があるわけなんですよ。
罰を与える」ということの誘惑が。
元々は「チェーンカラーでバキバキ」なタイプのトレーナーでしたから、この「罰を与える」ことが持つ即効性とか、効果とか、その辺はそれなりに知っていましたし、体験も経験もしていました。
ものすごくぶっちゃけていうと、大体の行動は「適度な罰を与える」ことで、割とすぐに変わります。
でも、この「適度な罰」ってのが、まあ難しい。
なかなか飼い主さんで、これができる方っていうのはいらっしゃらないんですよね。
まあ、そもそもの話、「適度な罰を与えられる飼い主さん」は、トレーナーのところに相談に来ないんですけどね。
トレーナーに相談しなくても、多分改善してるから。
ま、ま、ま、それはさておき。

そういう「罰の誘惑」があるわけなんですよ。
そこかしこに。
あちらこちらに。
そこをどうにかこうにか踏みとどまって…ってやってたんですけど、この講義を受けてはっきりと変わったんです。

 「罰は必要ない」

当時の講義のノートを見返したんですけど、こんなことが書いてました。

 「罰は甘え」

時々ね、「罰をしっかりと与えることで、イヌにわからせる必要がある」みたいな意見を聞いたり読んだりすることがありますけれど、あれはね、トレーナーの甘えです。
前にもどこかで書いたか、セミナーで言ったかしたと思うんですけど、イヌって生き物はですね「人間からのかかわりの大部分を、受け入れてしまう動物」なんですよね。

 「受け入れてしまう」

ここ大事。
だから多少の罰を与えても、いきなり攻撃行動に出るって子は、そんなに多くはないです。
でもだからってね、「イヌは多少の罰を与えても大丈夫だから」ってのは、これダメだと思うわけなんですよ。
「受け入れてしまう」からこそ、丁寧にやらなきゃダメだと思うわけなんですよ。

↑にも書いたように「罰を与える」ってことで、実は意外とあっけなく行動が変わることは結構あります(でも効果は一時的)。
でもそれをやらない。
あえて、やらない。
「罰を与える」に、逃げない
何がなんでも「正の強化」でやっていくんだっていうね。
これが、「正の強化を手段から目的に」ってことだと思うんですけども。
もちろん「正の強化でやっていく」ってのは、個人的な信条とか思想とかの話ではなくって、ロジックがあっての話です。

そのロジックだったり、先生の実践の話ってのはものすごいものがありました。
障害者施設での実践のお話とかね。
聞いて想像するだけで、ほんとものすごかった。
さすがに詳細書くのははばかられるので書きませんけれども、多分これを読んでるあなたが想像するよりも数倍ものすごいです。

そういうお話をたーっくさん聞くとですね、結局のところ「罰を与えてイヌにわからせるんだー」とかいう意見は、「罰を与えないとイヌをコントロールすることができないので、イヌに甘えて罰を与えさせてもらってます」ってことだなと思うんですよ。

「じゃあ、褒めるだけで変わるんかい?」
こういう疑問が出てくるかもしれませんが、↑にも書いたように「正の強化」は「褒める」だけじゃあないわけです。
また、「褒めるだけで変わる」ではなく、「褒めるだけで変わるような工夫をたくさんする」ってことなんです。
だから「正の強化を、手段から目的に」なわけです。


せっかくこの「褒める」とか「正の強化」って話が出たので、最後に。
ちょっと話飛びますけど、こないだ某所でもつぶやいたんですけどね。
このブログを読んでいる方に愛護団体の方がいらっしゃったら、是非お願いしたいことがあります。

「唸ったり噛んだりするのをなおさないと、この子のためにならない。だから、罰を与えてでも矯正する」

こういうのは、やめて欲しいんです。
「唸る」「噛む」って行動が出てるってことは、きっと何か怖かったり、嫌だったりすることの、精一杯の表現なわけなんですよ。
それを「悪いことだから」と、さらに嫌な思いをさせて矯正するってのは、これ、違うと思うんですよね。
「愛」ってなんなんでしょうか?と。
是非、お願いします。


てなわけで、続きます。



◆◆◆ お知らせ ◆◆◆

お知らせ その1

オフィシャルブログ に「ケースファイル 」というのを作りました。
これまでの事例を、簡単ではありますが解説したりしています。
まだまだ少ないですけれども、今後随時追加していく予定です。
よろしければお読みください。


お知らせ その2

僕が講師をさせていただいている「イヌのしつけと行動分析学」のセミナー、下記日程で行います。

■飼い主様向け

イヌのしつけに困っている方や、もっとイヌのことを知りたい方、コミュニケーションを楽しく取りたい方、そういった方向けに「行動分析学に基づいた考え方、かかわり方」をお伝えするセミナーです。
関西でのセミナーは、次回が最終回。
飼い主さんだけでなく、プロの方も是非どうぞ。

・「かいぬし塾 関西

日時:平成24年2月26日(日) 13:00~16:00
会場:サムティフェイム新大阪 ※前回と同じ会場です。
(大阪府大阪市淀川区西中島6-5-3)
費用:3,500円/人
参加:完全予約制

「かいぬし塾 関東」は、3月末を予定しています。

詳しいことは、主催のDLC-PROさんのサイト でご確認ください。


■プロの方向け

トレーナーさんだけでなく、わんこと飼い主さんの行動に関わる方なら、どなたでも。
「行動分析学に基づいた犬のしつけ、問題行動への考え方」を、テクニックだけじゃなく行動と学習の原理からお伝えしています。
トリマーさんや獣医さんや看護師さんも是非どうぞ。
また、飼い主さんも受講していただけます。
詳しいことは、主催のDLC-PROさんのサイト でご確認ください。

 ・「行動の科学セミナー(仮) in 新潟」
   3月中旬を予定しています。

 ・「犬塾 関西」
  毎月、大阪で定期開催しています。

 ・「犬塾 関東」
  4ヶ月に一度、東京で定期開催しています。
  次回は4月の予定です。


 ・「犬塾 東海」
  4ヶ月に一度、名古屋で定期開催しています。
  次回は5月の予定です。

 ・「犬塾 関西 2期」
  4ヶ月に一度、大阪で定期開催しています。
  次回は5月の予定です。


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