とくに印象に残っている出来事はほんの日常の会話で、ある1人の打楽器の団員が言った一言。
「オレはみんなのためを思って何の準備も練習もしてこない。お陰でみんな楽しくストレスなく演奏に臨めるだろう?すると演奏会が良くなるんだ。」
確かに彼はいつもリハーサルの初日は間違えだらけだったし緊張感のないフワっとした雰囲気を演奏に持ち込んでいた。そして彼の言い分はもっともだった。音を出すのが楽しかったし周りを気にせずアグレッシブに演奏できた。
そして何より彼は本当に素晴らしい打楽器奏者で本番ではみんなを魅了していた。難しいパートを担当しても大きくスタンスを変えることはなかったが、コンサートにクオリティを下げたことはない。
彼の考えを理解するハノーファー歌劇場のメンバーも素晴らしかった。音楽の本質的な良さに触れたような気がした心に深く残っている一言。