『20代前半の頃の僕は今よりもさらに楽観主義でした。それでヒドイ目に遭ったのがドイツ留学です。人生で初めて海外へ行くだけでなく独り暮らしも初体験、それにも関わらず3ヶ月間の語学留学でした。
何はともあれ行ってみようということでパスポートと航空券を手配して、準備完了です。ホテルも予約せず面倒を見てくれる知り合いもおらずガイドブックも持たず。持った本といえば「1日で話せるドイツ語」というポケットサイズの本、知っている情報はポツダマープラッツという場所にベルリンフィルハーモニーホールがありその近くにユースホステルがあるらしいということ、のみです。
出発の日、成田空港で初めて現状に怖気づき、何百回の「引き返すなら今か?」という自問自答のなか、重い足取りで飛行機に乗り込みます。とにかく世間知らずでしたので「基本は日本と同じ」という信念でベルリンのテーゲル空港に降り立ちます。
とりあえず街へ行こうと空港の電車乗り場を探すこと2時間、テーゲル空港には電車がないことを悟ります。バス乗り場へ。「基本は日本と同じ」ですので空港=長距離バス、安易にバスは選べません。バス・電車の路線図の前で小一時間、どのマークが何を意味するのか想いを巡らし、バスは路線バスであることも理解します。なんとか無賃乗車を繰り返しオフシーズンのベルリンフィルハーモニーホールに到着しましたが、オフシーズンでもちろん静まり返っております。
街なかに戻り人を見つけて「1日で話せるドイツ語」でユースホステルの場所を聞きますが、返答がヒアリングできませんし地元の人がユースホステルに詳しいわけがありません、地元の人はユースホステルを使わないでしょうから。
なんとかユースホステルを発見し中に入り受付で「1日で話せるドイツ語」を駆使して空き部屋があるか聞きます。
「Haben Sie freie Zimmer?」
またしてもヒアリングの問題が発生しますが、どうやら空き部屋はないというような雰囲気を感じとります。そこで日本のドイツ語学校で教わったことで1番大事な「解るまでちゃんと聞く」を実践し、もう一度受付の人に「1日で話せるドイツ語」で空き部屋があるかを聞きます。
「Haben Sie freie Zimmer?」
返答は「首を横に振る」というものでしたので、とりあえず建物の外に退散します。ユースホステルの前で困惑していたのですが他にあてがなかったので、いろいろ考えた結果「基本は日本と同じ」ということはユースホステルが満室なことはあり得ないですし(勝手な思い込み)、まだ「解るまでちゃんと聞いて」なかった(首を横に振られたのを見ただけ)ので、
再び受付の人の前へ行き、
「1日で話せるドイツ語」を開き、
空き部屋があるか質問します。
「Haben Sie freie Zimmer?」
すると何故だか笑われ、何やらカギを渡されます。僕は何事も諦めないことと解るまでちゃんと聞くことの偉大さを学びましたが、今思えば「もう時間も遅いしこの子供も夜中にウロウロさせるのは危ないのでベッドは埋まってるけど適当に寝泊まりしなさい」という受付の人の優しさに触れた、ということだったのでしょう。本当に良い思い出です。
翌日は通う予定の語学学校の場所がわからずベルリンを彷徨います。続く』