あれは2年ほど前の春休み。
厳しい開店法により週末、特に日曜日の営業が制限されているこの国でビューティフル・サンデーをどのように過ごせばいいのか相方と熟考した挙句、いたった結論が遊園地訪問である。
10余年を共にしてきた婚約者である相方と今さら遊園地へ行っても別段ときめきはないものの、まぁせっかくの余暇を床を転がるより有意義に、そして願わくば少々エキサイティングに過ごすには良いだろうとルール地方一帯の娯楽施設を調べ上げた。
― 見つけた。 かのワーナー・ブラザーズ提供、その名も“ワーナー・ブラザーズ・ランド”。
その凝った命名からも容易に想像がつくが、要するにワーナー・ブロス配給のハリウッド系映画をモチーフにしたアトラクションが集まったランドである。まぁ某ディズニーや某ユニバーサルが提供する遊園地のたぐいである。日本にもあるのだろうか。
大学時代入っていた映画サークルの影響からという訳ではないが、二人ともなんとなくその一大配給会社の響きに惹かれ、さっそく来訪するべく開館時間やイベント情報のリンクをのぞいてみた。
入場料、開館時間帯などは申し分ない。ただ1箇所、プログラムの当日の欄にふたりの目は引き寄せられた。
“ホモセクシャル(同性愛者)デー”
*ただし一般の方も来場できます。
何をもって「一般の方」としているのか。ただひとつ確実なのは、このたった1行の注意書きが二人の脳に瞬時に危険信号を発令したという事である。
しかしよくよく考えてみると、タイトルから察するにこのデーのメインは男性の同性愛者であり、数的にも少ない女性の同性愛者の来場は少ないであろうし、万が一誘拐されても女性だけだとなんとなく逃げ出せるような気がするという判断に至り、私は何も見なかったように静かにPCを閉じ、身支度を始めた。
背後では無言で外出拒否の視線を私に送り続ける人物が約1名いたが無視した。今日は日曜日なのだ。
この国の神も日曜日は楽しく休息せよと言っている。
小1時間ほどでランドに着いた。天気もいいし、温かい。心なしか駐車場には家族が乗れるワンボックス・カーが少ないように見えたがまぁ気のせいであろう。
「一般の方」も入れるとバットマンも力強く言っている。
入場ゲートを颯爽とくぐり、最初に家族連れと目が合う。
なぁんだ。なんのことはない、あんな小さな子供も事情を知らずに来園しているではないか。
それを見た途端、相方のテンションも遊園地独特の解放感に流されて上昇してきた。
調子に乗ったふたりはさらに奥へと進む。
ワーナー社のメインマスコット、バックスバニーの気ぐるみが黒タンクトップと抱き合い撮影中である。
園内のメインステージでは「ブラザーの輪を広げよう」をテーマに決起集会が開かれている。もちろんこの”ブラザー”が指すものはワーナー兄弟ではない。
映画のタイトルは思い出せないが、パトカーの形をしたコースターが激走する絶叫系マシンが園の一番奥にある。
それを目指す途中、黒々とした人ゴミの中でためしに相方を巻いてみた。
5分後、絶叫マシンの入り口付近で半ベソをかいた30男が発見された。
なにか恐ろしい目にあったのかもしれない。
私はこういうふとした事で男女の絆は深まるものなのだなぁと思った。獅子の子を谷底に落としてみる感覚に少し近いかもしれない。
その後も絶叫マシンで絶叫し、地上の人ごみでも心中穏やかではない相方は夕暮れ時、少し老けたように見えた。
後から聞いてみると、身の丈も小さく華奢な相方は、常に筋肉隆々の男性陣に脳天からつま先まで舐めるように見定められ、やむなく男子トイレに一人で向かった際には、幼い息子を守りながら用を足すお父さんに寄り添い、出遅れないように終始ペースを合わせていたらしい。
私にとってはいたって普通の遊園地と変わらず、適度に絶叫マシンで絶叫し、適度にバットマンバーガーを食し、適度に用を足せたので快適な日曜日であった。
それにしても行楽日和の日曜日に、同性愛者デーを開催するこの国、本当に商売っけがないというか、差別意識が低くてよいと言うべきか、ネタにつきない愛すべき国である。
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