2022年2月6日(日) くもり雪の結晶
(天声人語)幸せなパディントン 朝日新聞 22年2月6日
南米ペルーからロンドンに来たクマが、親切な一家に引き取られて騒動を起こす。童話『くまのパディントン』(松岡享子訳)を読み返したら、昔と同じページで手が止まった▼「どうぞこのくまのめんどうをみてやってください。おたのみします」。ロンドンの駅でパディントンが首につけていた札の言葉だ。ペルーで別れたおばさんグマのルーシーが書いたと思われるが、なんとも切なく響く。原書の英語を直訳すれば、「このくまの世話をしてください。ありがとう」とそっけない▼このシリーズの翻訳を手がけた児童文学者の松岡さんが86歳で亡くなった。生前のインタビューで、「私の翻訳に特色があるとしたら、子どもたちにお話を語ってきた経験があること」と話している。長い作品でも必ず訳文を音読し、録音を聞いて確かめた▼文字でも音でも言葉を大切にした原点は、20代で米国へ留学し、図書館に勤務した経験にある。このとき、物語を暗記して子どもに語るストーリーテリングの訓練を受けた。帰国後に「東京子ども図書館」を共同設立し、語りの活動に力を注いだ▼語りの際は、部屋を暗くし、ろうそくに灯をともす。何が始まるのかと小さな瞳が輝く。だが、もうずいぶん前から「子どもの反応が弱くなった」と案じていた。原因は、大人が発する言葉の軽さにあるのではないかと▼実のある言葉を選び、心を込めて子どもに語れと訴え続けた。パディントンも、日本で良き語り手を得て幸せだっただろう。

 

2022年1月29日 岐阜新聞

 

2022年1月29日 朝日新聞
「しろいうさぎとくろいうさぎ」「くまのパディントンシリーズ」などの訳書で知られる東京子ども図書館名誉理事長の松岡享子(まつおか・きょうこ)さんが25日、86歳で死去した。病気療養中だった。葬儀は近親者で行った。後日お別れの会を開く予定。喪主は養女松岡恵実(えみ)さん。
35年、神戸市生まれ。60年、慶応大学図書館学科を卒業後渡米し、ウェスタンミシガン大学大学院で児童図書館学を学ぶ。ボルティモア市の公共図書館、大阪市立中央図書館勤務を経て自宅で家庭文庫を開き、74年、故石井桃子さんらと東京子ども図書館を設立した。子どもたちを本の世界に誘(いざな)い、図書館員らの人材育成にも努めてきた。東日本大震災後、同図書館で始めた復興支援プロジェクト「3・11からの出発」を牽引(けんいん)、岩手県陸前高田市の陸前高田こども図書館の運営に協力した。
 主な著書に「なぞなぞのすきな女の子」「子どもと本」、訳書に「しろいうさぎとくろいうさぎ」「くまのパディントンシリーズ」「ゆかいなヘンリーくんシリーズ」「うさこちゃんシリーズ」など多数。
 69年に「くしゃみ くしゃみ 天のめぐみ」でサンケイ児童出版文化賞、71年に「ゆかいなヘンリーくんシリーズ」「とこちゃんはどこ」で児童福祉文化奨励賞、86年度に子ども文庫功労賞、99年に巌谷小波文芸賞、11年に日本児童文芸家協会児童文化功労賞を受賞。昨年、文化功労者に選ばれた。


我が家にあった唯一の松岡さんの著書 「とこちゃんはどこ」 

イギリスの絵本「ウォーリーを探せ」(1987年)の17年も前に、こんな楽しい探し絵本が出ていたんですね。

なんと、絵は加古里子さんです! あらためて気が付きました。ニコニコ


ご冥福をお祈りいたします。
お疲れさまでした。