健康・医療の世界でよく言われる

「エビデンス(科学的根拠)があるものは正しい」

「科学的に裏付けられたことをやるべき」

これは極めて大切な姿勢です。


病気の治療ガイドラインもエビデンスに基づいて作成されています。

しかし、実際の臨床では、

エビデンスどおりにいかないことがあります。


特に高齢者医療では、

治療ガイドラインやエビデンスのみを真剣に追いかけると不都合が生じ、

最終的に「減らす判断」に行き着くことがあります。


◾️エビデンスを足し算すると結果が変わる

•  正しいことを集めて

•  できるだけ多く実践すれば

•  体はもっと良くなる


ということで、

健康になるためには

服薬、食事、運動、睡眠、腸内細菌、炎症抑制、自律神経調整など、

やれることはたくさんあります。


エビデンスがあり理論的に正しくても、

全部を同時にやろうとすると、

生活は重荷になり、

体にも負担がかかり、

体調が逆に悪化する可能性すらあります。


◾️高齢者医療での実例


私の実際の例ですが、

内服薬を20数種類飲んでいた高齢の方がおられ、

入院を機に

優先順位の低い薬を5〜10剤慎重に中止しました。

すると

•  表情が良くなり

•  動きが軽くなり

•  元気になったと実感できる変化が起きたのです。


このようなことが起こりうると思います。


老年医学では「ポリファーマシーの是正」と呼ばれます。


「正しいものを全部使う」ことと、

「体が一番よく働く」ことは別物

ということです


◾️薬を減らすと元気になる!?


•  ほとんどの薬のエビデンスは「単剤」で、

 特定の疾患や条件に対して検証されている


•  多剤同時併用のエビデンスはほぼ存在しない


薬が増えると起こること


•  薬物相互作用の増加

•  眠気・ふらつき・食欲低下・認知機能低下などの合算負荷

•  高齢者特有の肝腎機能低下 → 薬のクリアランス低下 → 効く前に体力を消耗


これらは単なる副作用ではなく

累積された薬理学的負荷です。


理論上、ひとつずつでは正しい薬の組み合わせが

現実では機能低下・QOL低下を引き起こすことがあります。


健康のためにできる生活習慣も

エビデンスのあるものは山のようにありますが

全部実践して健康になるかというとそうではなく

それは苦行でしかありません


→ 問題の本質はエビデンスの「数」ではなく「構造」にある



◾️エビデンスの役割

エビデンスは全部守るためのルールではなく、

・選ぶための材料

・優先順位をつける地図

・思い切って減らすための正当な根拠

でもあります。


これが医療の現場、特に高齢者医療で必要な使い方なのでしょう。


少ないほど、体は正直に反応する


•  薬を減らして元気になる高齢者がいる

•  生活習慣を整理して調子が安定する人がいる

•  対策を絞ったほうが長続きする人がいる


これは科学の否定ではなく、

人間を深く理解したからこその、

やらないという選択の科学・選択の医療です。

エビデンスは理解し、あえて削ることも

実際の医療の現場では必要な態度です。


足し算より引き算と整理整頓で良くなることがあるということです。


参考文献

Thompson W, et al. (2024). Polypharmacy and Deprescribing in Older Adults. Annual Review of Medicine.

・ JAMA Network Open (2025). Deprescribing in Community-Dwelling Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis.

・ BMJ (2024). Deprescribing in older adults with polypharmacy.

AAFP (2019)Polypharmacy: Evaluating Risks and Deprescribing.

・ Davies LE, et al. (2020). Adverse Outcomes of Polypharmacy in Older People: Systematic Review of Reviews.

・  Reeve E, et al. Deprescribing Guidelines (deprescribing.org).