小児の嘔吐・下痢・腹痛の原因として最も多いのが急性胃腸炎です。
胃腸炎とは、いわゆる「おなかの風邪」のことで、日本ではウイルス性の胃腸炎が多いです。
特に5歳未満の小児は胃腸炎にかかりやすく、
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『嘔吐しました』
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『下痢が治りません』
と小児科を受診される方も多いのではないでしょうか。
胃腸炎で辛い症状はの1つは嘔吐でしょう。
食事や水分を吐いてしまうと、栄養が十分に摂取できなくなってしまいます。
また、 「子どもが吐いた」という事実は、保護者からすると心理的な負担になります。
このため、外来では、
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『吐き気止めをください』
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『吐き気があるときにの対処法を教えてください』
と受診される患児と保護者がいます。
今回は、小児でよく処方される吐き気止めの薬(制吐薬)が本当に有効性があるのか、薬以外の対処法はどのような方法があるのかを簡単に説明してみようと思います
小児の吐き気止め(制吐薬)って何がある?
まず、小児の吐き気止め(制吐薬)ですが、代表的な薬は以下の2つです:
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ナウゼリン®︎(ドンペリドン)
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プリンペラン®︎(メトクロプラミド)
ナウゼリン®︎ は、消化管や中枢神経にあるドーパミン受容体をブロックし、吐き気を抑える働きがあるといわれています。
プリンペラン®︎(メトクロプラミド) も吐き気止めとして、よく使用します。 吐き気止めとして、点滴に混ぜることもあるようです。
吐き気止めは効かない!?
胃腸炎による嘔吐に対して、吐き気止め(制吐剤)が処方されることが多々あります。
しかし、実際のところ、これらの薬の治療効果(吐き気を止める効果)は非常に乏しいといわれています(参考文献:BMJ Open. 2012:19;2:000622)。
いくつかの臨床研究がされていますが、ナウゼリン®︎やプリンペラン®︎といった制吐薬が小児の吐き気を止めるのに十分な効果があった、と報告された研究は今のところありません。
端的にいうと、制吐剤を使用しても、吐き気は大きく改善しないでしょうし、水分や食事が劇的に摂れるようになるわけではないことがほとんどでしょう。
ナウゼリン®︎ やプリンペラン®︎ は欧州や米国ではあまり使用されていない?
ナウゼリン®︎ やプリンペラン®︎ などの制吐剤の有効性は、日本以外の外国(欧州など)では有効性が疑問視されていて、使用していない国も多数あります。
例えば、欧州における「急性胃腸炎の治療ガイドライン」では、日本で日常的に処方されている制吐薬であるナウゼリン®︎ やプリンペラン®︎ は、治療の選択肢にすら入っていません。
制吐薬にも副作用がある
全ての薬に言えることですが、ナウゼリン®︎ やプリンペラン®︎ といった制吐薬にも副作用があります。
例えば、錐体外路症状といわれる神経系の副作用がでることがあります。
錐体外路症状が出ると、手足が震えて動作がしづらくなったり、勝手に手がよじれてしまいます。
このように、薬の吐き気止めとしての有効性は乏しく、副作用のリスクあることを考えると、安易に処方され、気軽に使用するのは控えた方がよいかもしれません。
胃腸炎で嘔吐したときの対処法
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制吐薬が効かないなら、どうしたら良いのでしょう?
と対処法について詳しく知りたい方もいるでしょう。
子どもが胃腸炎で嘔吐している時の対処法の基本は、まず水分・塩分・糖分をしっかり摂ることです。
一度に沢山飲むと嘔吐してしまうため、少ない量で頻回に摂取することをおすすめしています。
まず、吐いてしまったら30分ほどは飲食を避けましょう。
その後、スプーン1杯(約 5 ml)から水分を再開して、5〜10分おきに繰り返しながら、徐々に飲む量を増やしていくと良いでしょう。
例えば、スプーン1杯を10分おきに1〜2回飲ませてみて、大丈夫そうなら2杯に増やしてみるなど、焦らずにゆっくりと量を増やしていくのがポイントです。
何を飲ませたら良いか?
6ヶ月〜1歳未満の乳児であれば母乳や粉ミルクのままでよく、基本的には経口補水液に切り替える必要はありません。
1歳以降であれば、母乳や粉ミルクを飲んでいる場合は継続して良いです。
すでに卒乳していて、お茶や水分を摂取しているようでしたら、経口補水液(アクアライト®︎やOS-1®︎)などに切り替えてみるのも良いでしょう。
お茶や水ですと、水分は補給できても、塩分や糖分を補充することができないからです。
経口補水液を好まないお子さんでしたら、リンゴジュースを薄めて飲ませてみても良いでしょう(参考文献:JAMA . 2016:10;315:1966)。
点滴はしてもらった方が良い?
脱水が重度でなければ、口からの水分摂取が治療の中心となります。
ほとんどの胃腸炎は経口補水液で対応可能で、点滴が必要になるお子さんは、それほど多くはありません。
中には、「点滴には何か元気になる薬が入っている」と考えている方もいらしているようですが、小児科外来で脱水症に対して行う点滴には、経口補水液とほぼ同じ成分でして、水分、ミネラル(塩分)、糖分がほとんどです。
一方で、尿が半日以上出ない、ぐったりして元気がない、診察上で重度の脱水が疑われる時などは、小児科外来でも点滴をすることがあります。
まとめ
色々と解説していたら、長くなってしまったので、最後にポイントをまとめます
胃腸炎では嘔吐してしまうことがありますが、吐き気止め(制吐薬)の有効性は乏しいと考えられています。
吐き気は1〜2日くらいで軽快することがほとんどですので、飲み物を少量・頻回で繰り返し飲ませるのが良いでしょう。
水分を与える場合、水分だけでなく、塩分や糖分も一緒に摂取できると良いでしょう。
少量の水分でも吐いてしまう、尿が半日以上出ない、ぐったりして元気がない、診察上で重度の脱水が疑われる時などは、小児科外来でも点滴をすることがあります。
また、受診後あっても、このような症状がある場合は、腹痛などで夜も寝れない状況でしたら、お早めに医療機関にご相談された方が良いでしょう。
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