時間があるときにシリーズで彼の著作についての反論をして行こうと思います。

まず、彼の主張を述べて、その後反論をするという形式を取ろうと思います。

 

彼の著作の前半部分については頷ける部分も多々ありますし、勉強になった部分もあります。しかし、その多くの主張でたった一点、決定的な誤りがあり、そのために全体の論理的正しさは意味をなさなくなっています。というか、彼の主張のほとんどは多くの方は知っているけど、だけど音は変わっちゃうんだよね、という事柄ばかりです。

 

その一点とは、論理的な正しさ、デジタル上のデータ処理の正確さと、それを現実世界に実装し、音に実際に空気の振動に変換することの困難さは比較にならないほど異なっており、多くの場合、実装が理論通りに行かないために様々な差が生じている、という点を考慮していない点です。オーディオ的な工夫のほとんどはそこの差を埋めるためになされており、それをオカルトと呼んだ時点で、実際に出てくる音は論理とはほど遠い音になってしまうのです。

 

 

今回は、8.1 理性によって到達する最適解

についての反論です。

 

1.音源

彼は、ソースはストリーミングサービスの音源でいいと言います。

この点については私も同意します。光絶縁カスケード+電源の工夫によって、我が家ではCDやSACDを数十万円のシステムで聴いたときには得られないような音質を得ています。この音を凌駕するには単体のSACDプレーヤーなら数百万円クラスが必要でしょうし、音源についてはストリーミングサービスの44.1kHz、16bitロスレスで十分なのではないかと今は思っています。

しかし、です。我が家で明確にCDの音をストリーミングの音が超えるにはかなりの工夫が必要でした。つまり、論理と現実世界の挙動は違うのです。そもそも、論理は理想的な環境を想定しています。それは大幅に実際の回路の挙動を簡略化した世界です。たとえば、デジタル回路は膨大な数(多くは数百万以上です)のスイッチの集合体で、それらがのべつオンオフを繰り返しており、そのたびに電磁ノイズを空間と回路内に放出しています。デジタル領域での実装ではこの点は数学的な処理で乗り越えて数値としての処理を進めるのですが、事、時間軸やアナログ信号が関わると、このノイズが大きな影響をもたらしてしまいます。彼の言説にはほとんど、実際の回路挙動の話が出てきません。

 

2. プロセッサ

彼は、普通のPCやスマートフォン、よくできたアプリで十分だと言います。

これは全く私の体験とはかけ離れています。

 

確かに、動作が理想的(いくらプロセッサの稼動が変動しようと常に電源電圧は一定で、回路内のノイズの影響が信号にはおよばず、クロックは常に精密に時を刻む、と言う理想環境)であれば彼の言うとおりです。しかし、現実の器機はそうはなりません。そんな環境を実現しようとすれば、一般的なPCの設計からはかなり乖離した特殊な器機を準備せざるを得ません。そもそも、オーディオ用途のPCとしてはTAIKO Audioのように500万円〜1000万円超の価格帯となってしまうのは流石に高いなと思うのですが、それでも小ロットで最適な動作をする器機を、特殊な設計や基板を作って、流通マージンやその他様々なコストを考えると、その値段は法外に高いとは言えないと思います。確かにデータとしてどの程度信号品質が改善するのか、という点をTAIKO Audioが示していないのはぼったくり批判をする人には批判しやすいでしょうが、実際のその音を聴いて(私も聞いたことがあります)、非常に音場が広く解像度が高くかつ音楽性が高く感じる音で、普通のPCとは比べようもない音でした。

 

まず、PCオーディオを追求している方達は、OSに存在しているバックグラウンド処理やUSBポートの選択、ネットワーク負荷、電源などの要素が音質に影響するという経験をしています。この音質変化はデジタルデータそのものが変化しているわけではありません。PC内の負荷変動が電源ノイズやGNDノイズ、USBやSPDIFの出力波形やコモンモードノイズを変化させ、その事が後段のDAC内のクロック回路、アナログ信号に影響することで引き起こされると考える方がこれまでの幾多の人々の経験を説明しやすいと思います。

確かに、USB出力であれば、ジッターは直接後段には関係しませんが、それでもUSBデータの送出状況やノイズ状況によっては後段の作業負荷の変動やクロック動作に影響します。PCにSPDIFの同軸出力やTOSLINKがある場合にはジッターはそのまま信号のクロックに埋め込まれますから、さらに問題は深刻です。

最も問題なのは前段でも述べた高周波ノイズの影響です。基本的にPCはデータが間違わなければ良い、という前提で設計されていますから、ノイズを極力嫌うオーディオ器機とは根本的に異なります。

 

オーディオ器機が低ノイズにこだわる理由の一つはデジタルデータを音声アナログ信号に変換する上でクロックが極めて重要な役割を持ち、そのクロックが高周波ノイズの影響を非常に受けやすいからです。また、アナログ段にノイズが入り込み、アナログ信号そのものを汚してしまうことも問題となります。特にUSB出力では極めて汚いPC内の5V電源が信号線と並行してDACに流れ込んでしまいます。

 

このように、単純にデジタル領域で信号処理さえしていればどんなPCでも良い、という主張は後段への接続を考えるとノイズ環境や実際の回路動作を無視した議論と言わざるを得ません。

 

3.DAC/アンプ

TOPPINGやSMSLの数万円のDACやアンプで十分だという論調です。

残念ながら、確かにSNは優れていますが、音質としては我が家のChord DAVE+アキュフェーズには遠くおよびません。アンプの比較はできませんが、たとえば、GENELEC 8341Aでルーム補正を行った上で、上流をTOPPING DX5IIと、アキュフェーズを含めたメインシステムとした場合の音質差は明確です。

測定至上主義の方たちが陥りやすい誤りは、音楽信号などの常に変動する信号を扱う場合に静的特性を測ってもそれだけでは十分ではない、という事実を知ってか、もしくは知らないのか定かではありませんが、無視している、という点です。

この文章を書くに当たって彼が意味が無いと言っている我が家のハイエンドに近いメインシステムのバランス出力と、この写真の組み合わせ、Bluesound Node Nano+バッテリー電源+コンデンサバンク+小型リポバッテリー、TOPPING DX5IIをオーディオ用電源タップに自作電源ケーブルという彼は意味が無いと言っている電源を使ったシステムとを比べてみました。

いずれも上流は工夫しまくったLAN環境から同じようにDELA S1を介してQobuz上のデータに接続し、スピーカーはバランス出力を介して、補正済みのGENELEC 8341Aに接続します。Westside Story からAmericaを聞き比べました。

この組み合わせは彼が究極だと主張している組み合わせそのものです。

 

さて、音はどうでしょうか。

聞き比べてみると、明確にメインシステムからのアナログ出力の音の方が良いです。それもかなりの差で良いのです。実は音圧レベルはメインシステムの方が僅かに小さくなるようにあえて設定して聞いていますが、それでも音圧が大きいはずのTOPPING+GENELEC 8341Aの音の方が悪いのです。最も異なるのは音の分離感、各音の粒立ちやテクスチャの細かさです。もし、この差が聞き分けられないなら、コンサートに行かずに自宅でカセットを聴いていても生演奏を聴いても音は変わらないと言っているに等しいほど違うのです。

 

片や5万円+5万円の10万円、もう片方はいくらかかっているかここで言うのもはばかられる値段なので、当たり前と言えば当たり前なのですが、彼の言説では、音は全く同じになるはずです。ハイエンド機器は彼に言わせればただのファッションですし、ケーブルや電源の工夫は全く意味が無いのですから。ちなみに両システムとも上流でのイコライジングは行っておりません。

 

なぜ、このような差が生じるのでしょうか。

 

一つは、アナログ部の過渡特性の違いです。上流に使っているプリアンプ、DACなどアナログ信号を扱う機器は、今日の最高峰と言っていい機器群のなかに含まれる機器です。Accuphaseのフラッグシップ、C3900、及びChordのDACのフラッグシップDAVEがその二つです。これらの機器はアナログ信号の過渡特性を整える事に心血を注いでいます。

一方のTOPPING DX5IIは5万円というコスト制約の中で良くやっていると思うのですが、それでも内部でのDA変換は理想とはほど遠い状況なのです。おそらくTOPPINGの回路設計者はどこで妥協しているかを明確に把握しているはずで、彼の著作を鼻で笑うことと思います。

 

さらに上流部分は、EVERSOLO DMP A10をデジタルの送り出しとしてのみ使い、デジタル出力のノイズを低減するためにほぼ全ての空き端子にノイズシェーバーを繋いでします。さらにそのUSB出力をifi OMINI USBで受け、光でノイズシェービングした後、リクロック、内部バッテリー電源でノイズを取り除いたUSB出力をMutec MC3+USBで受け、さらにリックロックし、Chord M-Scalerに繋いでアップサンプリングして時間軸の正確性を担保しています。全てのクロックはMUTECのマスタークロック REF10SE120から供給されています。

 

この一見無駄に見える様な複雑な処理過程で、高周波ノイズの影響やGNDの影響から下流の機器が解き放たれて、さらに時間軸の正確性が担保されることで、DACが十二分に性能を発揮した結果が今の音になっているのだと思います。

 

各機器が、もしも全てノイズと関係なく時間軸に正確に動作するならここまでの差は出ないというか、音は全く同じにならなければいけません。しかし、現実のオーディオ機器の回路では、それぞれのデジタル機器はノイズ源となり得、それが下流に影響を与える事は普通に起きてしまいます。さらにDAは変換に非常に重要な役割を果たすクロックはノイズに極めて弱く容易に時間軸の変動が起きてしまいます。

ですから、これらの高額な機器は決してファッションなどでは無く、音楽信号を理想的に再生するための工夫なのです。

 

長くなりました。

次のパラグラフ、呪縛からの解放:捨てるべき物リストへの反論は次回のブログに書こうと思います。